【感想】貘の檻(道尾秀介)
大槇辰男は、離婚した妻の元に渡った息子と面会していた。その帰り、駅のホームで女性の自殺を目の当たりにする。彼女の名前は曾木美禰子。かつて、大槇の父が殺したと見做されていた女性だった。
大槇は曾木の死の真相を確かめるべく、水引きの伝説の残るかつての故郷へと赴く。
夢を食べる動物、貘の名がタイトルに冠されている理由は、大槇が見る夢にある。彼には根深い自殺願望があり、プロプラノロールという薬剤を服用することでその苦しみを忘れることができるが、副作用として悪夢を見る。
各章の末尾に挿入される悪夢の描写は、まるで幻想小説のようでもあり、現実を掠めるところ、変遷をたどるところを含めて、まさしく後を引く悪夢といった感じてとても面白かった。どこへいくともわからないその夢こそが、この小説を結論ありきで語られる他のミステリーとは一線を画すものにしていたと思う。
デビュー作の『背の眼』は怪奇ミステリーでもあり、冒険小説的な要素もあったのだけど、『貘の檻』では同じ要素をより洗練とさせた印象を受けた。
冒頭の暗い内面描写から始まり、とある事件からミステリ色が一気に深まる。暗さを保ったまま、ともすればコミカルでもある冒険的な描写を織り交ぜるのは難しいことだし、この作品では上手く働いていたと思う。
新潮文庫の100冊を頑張ろうと思って手に取った一冊。とても面白かったです。