雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

【感想】日曜日たち(吉田修一)

絡み合うということはどこかですれ違っているという意味でもある。 たとえ一緒にいたとしても、人と人とは違うもので、気づかないふりをしているけれど、少しずつ距離が生まれたり、不意に縮まったりする。 仲の良かったはずの友人が疎遠になったり、疎遠だ…

【感想】WILL(本多孝好)

両親を亡くし、高校卒業とともに葬儀屋を継いだ森野のもとへ舞い込んでくる幽霊話。自分の葬儀に変な噂が立たないように、森野は事情を調べ始める。 前作に『MOMENT』という小説があり、こちらについては随分と前に読んだ。記憶は曖昧なのだが、そのときの主…

【感想】ノエル―a story of stories―(道尾秀介)

人間は誰もが悪意を持ちうる。 道尾秀介さんの作品を読むと、いつもこの感覚がまとわりつく。 物語だとわかっているのに、不穏さに胸が締め付けられる。環境や精神の変遷をうけて、人間らしさをつかさどっているはずの理性がくるりと真っ黒に染め上げられる…

【感想】くちびるに歌を(中田永一)

長崎県の五島列島、とある中学校の合唱部。顧問の先生が産休に入り、新しい先生が東京から訪れる。 NHKコンクールまでの日々を、三年生の子どもたちを主体として送る物語。 中田永一名義の小説は『百瀬、こっちを向いて』以来となります。 もちろん本名義の…

【感想】月と蟹(道尾秀介)

道尾秀介で思い出すのは、『向日葵の咲かない夏』だ。大学時代に読み、泥の中に沈み込んでいくような不穏さが癖になり、真実が明らかになったときは息苦しさを覚えた。後に弟に貸し与えて、あまり好意見が返ってこなかったことにモヤモヤもしたのだが、今と…

【感想】一人っ子同盟(重松清)

自分が初めて重松清作品に触れたのがいつだったか、実のところ曖昧だ。 大学一年生の暇な時期だったか、高校卒業間際の空白期間か、あるいはそれよりもずっと前のことか。 とはいえ最初に購入した作品は覚えている。地元の古本屋の、漫画コーナーにおいやら…

【感想】路(吉田修一)

一九九七年、台湾の台北―高雄間高速鉄道建設工事の入札にて、自らの技術力を過信していた日本は、より低い予算を呈示した欧州連合を相手に敗北を喫した。しかしその後、台湾からのまるで恩赦のような申し出により、敗者復活の可能性を得る。三年後の二〇〇〇…