【感想】WILL(本多孝好)
両親を亡くし、高校卒業とともに葬儀屋を継いだ森野のもとへ舞い込んでくる幽霊話。自分の葬儀に変な噂が立たないように、森野は事情を調べ始める。
前作に『MOMENT』という小説があり、こちらについては随分と前に読んだ。記憶は曖昧なのだが、そのときの主人公は神田という男であり、森野は彼と因縁浅からぬ女性として登場していた。
『WILL』は森野の視点から描かれた連作短編集である。『MOMENT』の時点から、7年の月日が流れており、神田と森野の距離は物理的にも離れているが、時折ふとしたことで電話を交わす。ときにはそのやりとりが事件を解決に導いたりもする。
とはいえ、事件解決が大きな目標というものではない。森野自身は警察でも探偵でもなく、葬儀屋であり、込み入った事情を観察するほかない。実際に明るみになった事情とて、わかったところでどうにもならないことがほとんどだ。
当の人物が何を考えていたのかがわかったところで、結局その人物は死んでいる。その事実に納得するか、また別の答えを見つけて落ちつくのか。遺族のこれからを考えるのは遺族の仕事だ。
タイトルである『WILL』は意志の意味であり、英語において未来を意味する助詞でもある。意志が未来を作る。過去に遺された意志は、必ず未来へ向けられている。埋もれていくはずだった言葉たちが、ひとつずつ汲み取られていく。掬うと救うが同じ読みであることにも思いを馳せつつ、優しさに満ちた良いお話でした。