雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

よしもとばなな『デッドエンドの思い出』(文春文庫)

 よしもとばななの名前を聞いたことはもちろんあった。大学入試の際にセンター試験の過去問を総当たりしていれば『TUGUMI』を見かけたし、図書館広報にもよく名前が載っていたと記憶している。しかし作品そのものを読み通したことは無かった。このたびは、父親である吉本隆明の全集が発売されているのを見て頭に名前が浮かび、ブックオフで見かけたこの短編集『デッドエンドの思い出』に手を出してみた次第である。

 中身は五つの短編集で、どれもこれも一筋縄ではいかない切なさのあるお話だ。つかみどころのなさげな文章は少女趣味とも受け止められかねないが、じっくり向き合えば読み飛ばすことなどできない。柔らかな文体で複雑な心境をわかりやすく伝えているから軽いように見えるだけであって、無駄な飾りなどはほとんどないことがよくわかる。

 あえて僕のお勧めを言うとすれば、やはり表題作の『デッドエンドの思い出』が印象的だった。婚約の約束をしたはずの彼氏にこっぴどく振られ、厭世的になった女性と、表も裏もない男性との交流だ。男性の言葉の多くは教え諭す口調ではあるが、それは決して上から目線ではなく率直な目線で語っているから。それだけ、彼の発言はじっくり読んでみたいと思わせるものだった。

ずっと家の中にいたり、同じ場所にいるからって、同じような生活をしていて、一見落ち着いて見えるからって、ここrまで狭く閉じ込められていたり静かで単純だと思うのは、すっごく貧しい考え方なんだよ。

――デッドエンドの思い出

 まったくもって、その通りだと信じたい。