第29回文学フリマ東京参加レポ
僕は人と目を合わせるのが苦手だ。
だから、ブースに座っているときも目を合わせない。
合ってしまったら会釈をし、視線を断ち切る。
目を閉じて、次に開いたときにもういなくなっていたらそれでいい。
その人が立ち止まっていたら「こんにちは」と声を掛ける。
いつでも緊張するし、今さら治らないんだろうなとほとんど諦めている。
だから、僕はその人がどんな風にやって来たのか憶えていない。
気がついたら僕のブースの前に立っていて、『火竜』を眺めていた。
「よろしかったらお手に取ってみてください」
僕が言うと、その人は小さく頷いて立ち読みをし、割とじっくり目を通してから本を閉じた。
「エモい」
そうして購入実績に一冊が追加されたことが、昨日の文学フリマの中であった、印象的な出来事の一つだ。
夢と現実が交錯するファンタジー小説『火竜』を初頒布したのは今年の3月だ。
正式な名前は『火竜の僕は勇者の君と一度も言葉を交わさない』という長いもので、僕が初めて表紙絵を依頼して完成させた本であり、思い入れも一入だ。
カレー王を目指して疾走した友人を探す物語『C'mon Spice!』を5月に、5年間の活動の変遷をまとめた短編集『拡張現実試論』を9月に頒布。
そして11月の今回は『神様のいない場所』という短い物語を書いた。
初めて描いた、東日本大震災の話だった。
他人があの日のことを話しているのを見て思いつくという、かなり酷い創作動機だったので、誰にも言わずに震災ボランティアの資料を集めたり、石巻市まで足を運んで資料館や工事の様子を眺めたりしていた。
そんな風にして出来た4冊を並べて頒布。
それに加えて、他サークルにて二つの作品を寄稿した。
一つが自分の過去を振り返るエッセイ。もう一つが果たせなかった恋を描く小説。
『火竜』の原型は去年書いたものだけど、今年の1月にほぼ書き直したし、『拡張現実試論』も結局全作品手を入れているので、まあ、随分書いた方だと思う。
カタログ登録をしているときに、去年はどんな風に紹介文を書いたかなと、振り返ろうとして、去年は文学フリマ東京に5月も11月も参加していなかったと気づいて驚いたりもした。
書けなかった去年から、少しずつ回復していたらしい。
回復といってもまだまだ至らない点は多いし、サークル設営や売り方、本の装丁から交流の姿勢まで、反省点はとても多い。考えすぎるとぼーっとして、仕事中もちょっと危なかった。
もっといろいろできただろうし、できなかったことを悔やむ。
そして同じくらいの気持ちの大きさで、できたことを憶えておきたい。
会場を離れ、電車を乗り継ぎ、都境を抜けて、いつしか山間の道を往く。
それがいつもの僕の帰路だ。街灯は間隔を広くしていき、周りから人の気配が消えていく。
僕は人が苦手だけど、同時に人がいないと怖い。
拒否反応を示しながら、同時に興味関心を抱く。
そんな相反する感情のせいで今まで散々人を傷つけてきた。
反動の後悔を何度も懲りずに繰り返して、気がついたら一人だった。
うっかり目線が合ってしまったときの手汗は僕を諫めてくれる。
むしろ僕の方からいつも諫めてくれと縋っている。
それでも昨日のことは手放しで喜びたい。
何が果たせたわけでもないけれど、楽しんだし、これからも楽しみたいのだから。
主催者やスタッフの方々、当ブースにお越しくださった方々、実際に手に取ってくださった方々には、いくら感謝しても足りません。
良いイベントでした。
今後の開催も楽しみにしています。
さて、頒布実績。
神様:8
拡張現実試論:7
C'mon:0
火竜:15
From:0
JAM(委託):1
フリーペーパー(新刊告知):9
有償合計:31
初めての30台突破です。嬉しい!!!
『火竜』が未だに二桁頒布してくれるのが嬉しいというか、むしろ前より増えているというか、あれ今在庫10冊ないのでは? という感じなのでちょっと土日に数えたい。土曜日は仕事だけど。
『神様』と『拡張』はいけそうなので通販の準備を始めます。
『JAM』は残り1冊です。
そしてフリーペーパーでは来年5月の新刊予定『時をかける俺以外』(文庫版)の話に触れました。
これについては来週か、遅くとも今年中には告知を書こうかなと思っています。
フリーペーパーの内容を打ち明ける感じになると思います。
来年の5月まで、しばらくサークル参加はありません。
今年ほどいろんなイベントに参加することもないんじゃないかなーって、これはまあ前から言っているとおりです。
ものすごく正直に言えば、参加準備していると執筆ができないんです。単細胞すぎてあれです、すいません。でも寄稿はできます。頑張ります。
やっていきましょう。創作活動。これからも。
それでは失礼いたします。