悟浄出立
2009年から2014年という長い期間で書かれている。2006年にデビューした作者の、物語の書き方がどんなふうに変わったのかが見えてくるようだった。
・悟浄出立
『西遊記』の沙悟浄が主人公。アクションが少なく(妖怪が言葉でのみの登場だったり)、話し言葉メインなのが少し寂しかった。脇に立つ者が自ら選んだ道を行くことの自由さに心打たれるラストシーンは、明るく前向きで、読後感を爽やかなものにしてくれている。
・趙雲西航
『三国志』の趙雲が主人公。張飛を思うたびに胸に湧く黒い感情の正体を追求する。『三国志』を知っていればもっと楽しめたはず。故郷と隔てられる哀切が胸にしみる。
・虞姫寂静
項羽の愛人、虞美人の物語。素性の不明な人物であることから着想されたように思われる。自分の存在意義をめぐる人間的な感情と、色鮮やかでありながらももの悲しい伝説とが溶け合っている。
・法家孤憤
秦王の暗殺を目論んだ荊軻と、名前の読みが同じであり、そのために荊軻とちょっとした関わりがある秦国官吏の物語。正義の揺れる様が国内に広まっていく中、それでも信念を貫こうとする男の、静かながらも熱い憤りが感じられる。それはまた、ほんの少しの事情で歴史が変わることの奇妙さ、面白さにも通じているのかも。
・父司馬遷
『史記』の作者司馬遷の娘が主人公であり、宮刑に処された司馬遷の堕落と、再び歴史書編纂に向けて再起する様を描いている。『法家孤憤』の荊軻が出し物として登場していたりと、古代中国を舞台とした短編集であるこの一冊の締めくくりにふさわしい内容だ(その意味では『悟浄出立』だけが浮いてしまっているが)。
・悟浄出立
『西遊記』の沙悟浄が主人公。アクションが少なく(妖怪が言葉でのみの登場だったり)、話し言葉メインなのが少し寂しかった。脇に立つ者が自ら選んだ道を行くことの自由さに心打たれるラストシーンは、明るく前向きで、読後感を爽やかなものにしてくれている。
・趙雲西航
『三国志』の趙雲が主人公。張飛を思うたびに胸に湧く黒い感情の正体を追求する。『三国志』を知っていればもっと楽しめたはず。故郷と隔てられる哀切が胸にしみる。
・虞姫寂静
項羽の愛人、虞美人の物語。素性の不明な人物であることから着想されたように思われる。自分の存在意義をめぐる人間的な感情と、色鮮やかでありながらももの悲しい伝説とが溶け合っている。
・法家孤憤
秦王の暗殺を目論んだ荊軻と、名前の読みが同じであり、そのために荊軻とちょっとした関わりがある秦国官吏の物語。正義の揺れる様が国内に広まっていく中、それでも信念を貫こうとする男の、静かながらも熱い憤りが感じられる。それはまた、ほんの少しの事情で歴史が変わることの奇妙さ、面白さにも通じているのかも。
・父司馬遷
『史記』の作者司馬遷の娘が主人公であり、宮刑に処された司馬遷の堕落と、再び歴史書編纂に向けて再起する様を描いている。『法家孤憤』の荊軻が出し物として登場していたりと、古代中国を舞台とした短編集であるこの一冊の締めくくりにふさわしい内容だ(その意味では『悟浄出立』だけが浮いてしまっているが)。