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雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。創作サークル綾月所属。個人サークル鳴草庵代表。

書き方考

はじめに

たとえば物語の冒頭部で、喫茶店で知り合いの女の子と出会う場面を書くとしよう。

 

ごく簡単に展開を書くとすれば

 

1.店に入る

2.彼女に近寄る

3.あいさつを交わして座る

 

となる。

これに僕はさんざん悩む。

 

書き手でないと意味が分からないだろうし、書き手であっても全然悩まない人がいるのかもしれないが、僕はそういうわけにいかない。何を書くべきで何を省くべきなのか、どう順番で書くべきなのか、悩むべきことは山のようになる。

 

1.について

店に入る動作の前後に何を書けばいいか。

 

これが物語の始まりの場面だと想定してあることを忘れてはいけない。読者は扉を開こうとするその人が誰なのかすらわかっていない。

 

では主人公の説明から入ればいいか、というと、必ずしもそうではない。いきなり説明から入ったって頭に入り込みはしない。容姿だって省いてしまっていい。

 

必要なのは、「物語上それなりに存在感のある人物が今扉を開いていますよ、場面が店内へと移行しますよ」という情報だ。

この情報を伝えるために、「店に入った」の一文では無粋だ。せっかちな人なら読み飛ばしてしまう。

僕なんてせっかちな性分だから、本を読んでいて場面転換を読み飛ばしてしまうことがよくある。それでもどうにかまともに本を読めているのは、文章に情景が描写されているおかげで後からでも登場人物がどこにいるのかわかるからだ。

 

というわけで場面が動く前と後には情景描写があると嬉しい。

 

それでは、入る前に何か書こう。

ここで重要なのは、「扉を開くからと言ったって扉のことばかり書くわけにはいかない」ということだ。

 

扉を描写するといったって、どんなバリエーションがあるというのだろう。

重そう、軽そう、重厚だ、瀟洒だ、きいーっと音を立てて、からんと呼び鈴を鳴らして、バタンと音を立てて……

 

要らん。

だってそうだろう。部屋に入るのにいちいち扉が重いなあとか考えるか。気にするか。見るか。

よっぽどのことがないかぎり扉は扉でどれもこれも似たようなものであり、情報をわざわざ付加する必要はない。

 

扉なんか書かなくていい。

 

喫茶店に入った。

 

入ることそのものについてはこれでいい。

描写すべきは別のことだ。

空の描写を書く人は多い。晴れているとか曇っているとか、まあありがちなんだけれども、一応曇り空ならなんとなく不安げだ。映画でもよくやる。

でも毎回書いてたら飽きる。書く方も読む方も。

じゃ、どうしよう。

 

とりあえず主人公は嫌な予感を感じているとする。

一番助かるのは心理描写を交えることだ。

たとえば脇道から黒猫が出てきたのを見たとする。べただけどそれなりに不吉だ。これに「目についてしまった」とか「嫌なものをみた」だとか、なんとなく主人公の心理が伝わるようなことを書く。これで立派に、紋切型から脱出できる。べただけど。

 

ここまで考えたところで順番を考えよう。

 

不安げな主人公が扉を開ける。

→喫茶店の中に入る。

 

不安げという情報は入る中と後で変わるか。

変わらん。

だからこれは最初にちょろっと書けばいい。

 

問題は景色だ。

外から中に入れば景色は変わる。天外から店内へと移る。

 

扉を開いた。

 

そのあとに

 

お店の中は~~~~~~

 

と書く必要があるか。

 

一概に要らないとはいえない。

お店の中がよほど重要なら書いた方がいい。

 

だが大抵は重要じゃないだろう。

混んでいるとか空いているとか、賑やかだとか熱気があるとか物静かとか気怠い暗い陽気だファンシー可愛らしい……

それくらいの状況説明を一言つければいい。一行はまあいい。二行はぎりぎり。三行も続けたら読む気にならん。よほど面白いことが書いてあるのならべつだが、そうでないのならただの無意味な説明に他ならない。

 

意味のあることでないと読み飛ばす、それだけならいい。

酷い人ならそこで読むのを止めて本棚に戻す。そして二度と開かない。

 

どうにか読んでもらいたいならやっぱり無駄は省いた方がいい。

 

不安を感じながら喫茶店の扉を開いた。喧騒が聞こえてくる。空気中を漂っていた濃厚な煙草の香りが入口に集まり、僕の鼻を突いた。

 

即席である。

「開いた」という動作、『聞こえてくる』で聴覚、『鼻を突いた』で嗅覚。煙草の部分で『空気中を~』と描写をつけたのは、他の文章が短いのとメリハリをつけるためである。

『僕の鼻を突いた』の扱いも迷った。前半とバランスが悪いように感じられた。というより改稿する前はもっとひどかった。このあたりのバランス感覚がまだ僕は悪い。

 

次は2.

次に女の子と会うわけだが、パターンがいくつかある。

 

①僕が見つけて声を掛ける。

②相手が僕を見つけて声を掛けてくれる。

③すぐそばにいる。

④目だけが合う。

⑤後ろから現れる。

⑥いない→別の展開へ。

 

ここではひとまずいてほしい。

あとはどのように気づくかだが、③はやっぱりどうでもいい。そんなところまでテンポをよくする必要はない。

⑤は場面による。ギャグが通用するならいいかもしれない。面白さとか表現したり。そういうつもりじゃないなら書かないこと。

おそらく現実的なのは①、②だ。④は①か②の前段階としてねじ込める。

 

自分から声を掛けるか、声を掛けられるのを待っているか。

これは積極的か消極的か、つまり主人公の性格の話だ。

 

頭に思い描いた景色がもしあるのならそれを書いてみてもいいが、とくにこだわりが無いなら主人公の性格を表すために捻じ曲げろ。どうせ50メートルも変わらない距離の話だ。大して影響もない。

 

ここでは消極的な主人公としよう。

 

「○○くん!」

 声に振り向けば△△がいた。窓際の席に腰かけ、背筋を伸ばしてこちらを見ている。僕は急ぎ足で彼女の前へと歩み、遅れたことをわびた。

 

 

ここまで書いていいの? と驚いている人がいることだろう。

どういうことかぴんとこない人のために解説する。

 

僕の例文では見かけてから詫びるところまで一直線だ。

これに言葉を挟むこともできる。

「詫びた」の代わりに『遅れてごめんよ』と言ったり、そんな具合だ。

ではなぜ書かないか。

野暮ったいからだ。

変な感じに聞こえるかもしれないが、遅れたら普通「ごめん」と言う。

言わない場合にはむしろ理由がいるだろう。

言うのに理由はいらない。言うのが普通で、その言葉だってほぼ全員が「ごめん」に類似するものだ。だから、同じだし、カッコ書きして強調する必要すらない。

 

言葉を削る。

せっかく書いた文章を、と思う人はいるかもしれない。

でもいいんだ。その文章が本当にお気に入りならば、またいつの日か自分でも書ける。今は放っておけばいい。どうせノートを取っておいても、読み返したりはしない。

 

3.

描写を省くことは書いた。でも省きっぱなしだとやっぱり物足りない。

謝ることは単調でも、謝られる側は単調じゃないかもしれない。

単調じゃなくするにはありきたりな言葉を使うのをやめればいい。

「いいよ」という許しの言葉だけじゃだめだ。誰だっていう。

 

必要なのは、「許し+α」

「いいよ、あたしも今来たところだし。それより早く打ち合わせ済ませちゃおう」

 そして次の展開へと移行する。

 

 

おわりに

1.2.3.とわけて解説してみた。

とはいえ、悩むというだけで実際はどうだろう。

実際にはここに書いたことすべてを頭で理解する人は少ないのかもしれない。

というか、書いているうちはひとまず書いて、あとから修正するというのが僕のいつもの調子だ。

何せ正しい物がなかなか見えてこない世界だ。上に書いた指摘も、だいたいはどこかの受け売りだったりする。難しいことはかんまり考えていない。

ただ、悩もうと思えばいくらでも悩めるというのが、いいところでもあり悪いところでもある気がする。