【感想】すべて真夜中の恋人たち(川上未映子)
これは大人の恋愛小説と、割り切ってしまうと、バイアスが掛かってしまうように想われる。
この物語の主人公は三〇代の後半に差し掛かる女性で、相手は五〇代と思われる初老の男性。客観的には大人同士。そういったものに興味があるかと言われると、どちらかと言えばないのだけれど、読むのが辛くはならなかった。
批評家っぽく理由を並べ立てるつもりはないが、ひとつ挙げるとすれば、主人公の感性が共感しやすかった。
大人になる年齢なのに、周りのようには上手く立ち回れない。
言ってみれば子どもの頃の恐怖感を未だに抱えたままなのだろう。
だから、二人が出会ってからも、熱い想いを吐露するような展開にはならない。
不器用な主人公が、相手を介して新しい世界を垣間見る。初めて、他の人に近づきたいと思う。
恋愛と言われるとまあそうだし、身構えてしまうけれど、もっと一般的な成長について描いていると思う。
この世の中で、他者と触れ合うにはどうすればいいか。
わからないから、真夜中に惹かれてしまうのだ。
前に『ヘヴン』の感想文を書いて、それが僕にとっての初めての川上未映子作品だった。
そのときに感じた文章の美しさや、突きつけてくる残酷さは健在だった。
描写そのものに注目することが度々あった。
心情描写の流れ方に気が向いてしまう。文字通り吐き出すような感情が、数ページにもわたる。だけど疲れない。そこにはきちんと流れがあって、自然に感じられた。
そういう気持ちになる作者は少ないので、貴重な方だと思っている。