雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

風の海 迷宮の岸 (小野不由美)

 

風の海 迷宮の岸〈上〉 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)

風の海 迷宮の岸〈上〉 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)

 

 

 

風の海 迷宮の岸(下) 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)

風の海 迷宮の岸(下) 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)

 

 

 読んだら書く癖をつけたい。

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ブラックライダー(東山彰良)

 

ブラックライダー(上) (新潮文庫)

ブラックライダー(上) (新潮文庫)

 
ブラックライダー(下) (新潮文庫)

ブラックライダー(下) (新潮文庫)

 

 

 文庫本2冊、両方合わせて900ページ程度です。地殻変動や核爆発によって荒廃した世界で生きる荒くれ者たちの物語。

 長いお話なのでそこまで深く読み込めているわけではないけれど、聖書を絡めた西部劇のような、冒険奇譚のような、SFのような、それでいて徹底したエンタメ作品。あとがきにも、そのごった煮感が堪らないと書いてありまして、僕も同感でした。いろんなことが起る。正直なところ起りすぎて把握するのが難しい。だから読みにくさもあるわけですが、文章がとても洒脱なので各ページ毎を読むとむしろ楽しい。一気読みするには向かず、むしろ数ページずつ舐めるように読む方が向いているように思う。それこそ聖書のように、いや、聖書の読み方なんてあるのかわからんけれども。

 『流』のときも思ったのだけど、この作者は時間を自由に操る。出来事を順番に並べることはあまりなくて、前後させることがしょっちゅうある。『ブラックライダー』で言えば、平和な描写のときにラジオから歌が聞こえてきて、空行ののち、同じ歌を聴いている戦地の話になり、平和なときに傍にいたパートナーがとっくに死んでいることが明かされたり。しかも死の描写はさらにそのあとに回されている。このような構成にするってことは何かしら意味があるのだと思うが、全部を追うのは難しい。ただこの構成だと話がどんどん進んでいく感じはする。結果、ぼーっとしていると置いていかれる。それを楽しめる人なら問題ない。僕は楽しかったです。

 

その夜、読書中に昼間の出来事を思い出し、本を開いたままで笑顔をつくる練習をしてみた。暖かいものを胸のうちに感じたが、孤独の輪郭もそのぶんくっきりと見えたような気がした。もしこれが愛というものなら、とジョアンは思った。それは孤独を甘く味わうための塩のようなものなんだな。

(下巻 p63)

 

「(前略)すべての戦争はロマン主義者どうしの戦いなんだ。ロマン主義はいずれ野球やバスケットボールに封じ込められてしまうだろう。芸術という名の小さな箱にしまわれ、鍵をかけられてしまうだろう。新しい世界ではすべての街角に理性側の代理人が立っているだろう。だが、理性なんかくそ食らえだ。おれたちはこのチャンスを逃すつもりはない。(後略)」

(下巻 p240)

 

 スノーが狂ってしまったのも、討伐隊が狂ってしまったのも、お下げ髪の狙撃手が狂ってしまったのも、おれが狂ってしまったのも、とどのつまり、天国などどこにもないからなんだな。おれたちは道を踏み外しながら生きていくしかないんだ。だれかと出会ったり、だれかにすがりついたり、死に目にだれかの名前を叫んだりしながら、どうにかやっていくしかない。もしもそれを愛と呼ぶことができるというなら、天国と地獄はきっとおおなじ列車に乗って行けるんだ。

(下巻 p363)

 

手のなかの髪留めを見下ろす。光にあてると、閉じ込められていた翡翠色のプリズムがまたたいた。ロミオ・レインについてなにか思い出そうとしたが、おぼろげな面影が近づいては、また魚のように泳ぎ去るのだった。ロミオを愛した日々のことならば、いま着ているこのドレスのように、たしかな手触りをともなって思い出すことができる。けれど、愛された思い出は結晶のように純化し、ほとんど思い出すことができなかった。やさしかった言葉たちは声を失い、ただの文字となって心に刻まれていることに気づいたとき、ルピータははじめて、あれから途方もない時間が失われてしまったことを悟った。

(下巻 P485)