雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。創作サークル綾月所属。個人サークル鳴草庵代表。

『サクリファイス』(近藤史恵)

 

サクリファイス (新潮文庫)

サクリファイス (新潮文庫)

 

 

 自分を犠牲にしてでもチームを勝利へ導くこと。そのような独特の性質に興味を抱いて陸上の世界を離れ、ロードレースのプロチームに入った主人公白石誓は、チームリーダー石尾にまつわる不穏な噂を聞かされる。それは有望だったチームメイトを事故に見せかけて故障させ、引退に追いやったという内容だった。噂は本当なのか。それとも動揺を誘う戦略なのか。疑惑が渦巻く中、チームは順調に勝ち進み、本場ヨーロッパのロードレース大会リエージュルクセンブルクへの出場権を手に入れる。

 

 『サクリファイス』はロードレース×サスペンスという異色の組み合わせで成り立っています。むしろ推理小説だと思って買ったのにがっつりロードレースについて読まされます。レースの戦略の立て方や駆け引きの様がもう本当に面白くて面白くて、そこだけでもメインにもっていけそうな内容なのです。いわゆるスポーツもの、それも青春小説のような甘酸っぱさはほとんど無く、ただひたすら勝つことを目的としたプロの仕事を見せてくれます。これで作者は執筆当時ロードレースのことを全く知らなかったというのだから何でも書けるものなんだなって気がしてきます。

 一方のサスペンスの側面も綺麗にまとまっている印象を受けました。ちりばめた布石の拾い方が上手いですね。表題にもある『犠牲』というテーマも丁寧にクライマックスに落とし込んでくれています。

 お話としては文庫本一巻できちんと終わります。続編もそのまた続編もあるようですが、どのようなお話になるのかは予測がつきません。気長に読めたら良いなと思います。