雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

構造分析『火竜の僕は勇者の君と一度も言葉を交わさない』

先月カクヨムにて『火竜の僕は勇者の君と一度も言葉を交わさない』という短編作品を公開しました。

kakuyomu.jp

当作品は、6月10日現在、850PVをいただいており、自作品では一番人気のある作品となっています。

PV数の伸びは投稿の5日後くらいから顕著になりました。ちょうどその頃に異世界ファンタジージャンルでの週間ランキングが100位以内に入り、ランキングのページからページ遷移なしで名前を観られるようになったことが大きかったのではないかと思っています。

あと、僕の予想以上にドラゴンが人気だったみたいです。何かの影響で流行っているんですかね。企画としてもドラゴンが登場する作品募集中みたいなのがありましたので、タイミングが良かったのかな。

何にせよ、いいねやレビューもいただけて、それも概ね好評だったのが嬉しかったです。ありがとうございました。

個人的にも、『火竜』は今まで書いたことのないものができた気がしています。それは本当に直感的なものだったのですが、曖昧なままなのもよろしくないので、せっかくですしこの作品の構造を自分なりに分析してみたいと思います。

 

『火竜』の全文字数は21,000字程度です。

ちょうど先日公開した『僕が部屋から出た理由』は10,000字程度の作品となっています。こちらの作品の方が、僕の今までの作品に近い構成です。『火竜』はだいたい倍の文字数ですね。

こちらを念頭に置いておきます。

 

『火竜』は全七話で構成されています。

最初から七話を目指していたというよりは、全体のバランスを考えて区切りをつけた結果の話数でした。

各話の内容を簡単に示すと以下の通りです。

 

第一話 意識不明の主人公が異世界で火竜となり、勇者の少女と出会う。

第二話 現実より夢の方に没頭し始める。

第三話 少女と交流するうちに起き上がる気力を無くす。

第四話 病気の回復(交流の終わり)を悟り、少女に伝えようとするが上手くいかず喧嘩する。

第五話 夢の話を母に打ち明け、受け容れてもらえる。

第六話 少女に呼ばれ、最後の戦いに臨む。

第七話 大人になり、少女のことを書き留めようと決意する。

 

全体をざっくりと割ります。

第一話から第三話は状況説明です。主人公の中で現実よりも異世界に重きが置かれるという状況ですね。

第四話にて、主人公の病気が回復することでこの状況が破壊されます。今までと同じにはならないとわかり、少女にそのことを伝えようとするけれど、彼の言葉は全て炎になる。伝わったのかわからないうちに現実に引き戻されてしまう。

第五話は現実世界での話、第六話は異世界での話、そして第七話は全体を総括するオチをつけています。

 

分析にあたって重要なのは第五話、第六話だと思います。

現実の話と異世界の話。この二つの筋が『火竜』の中に存在しています。

先ほど文字数が倍増したと言いましたが、二つのエピソードが入っているから倍増していたんですね。

 

現実と異世界は影響し合っています。

現実世界で病に倒れた主人公が、夢の中の異世界でティナと出会う。主人公とティナの関係において、現実世界は邪魔なものとなります。敵というと言い過ぎですが、二人の関係性を引き裂く可能性を秘めているものですね。

それが、病の回復により終わりを迎える。起き上がれないと嘘をついていること、その嘘を信じている母を見て主人公はいたたまれなくなります。

その後自宅療養となり、主人公は夢の話を母に打ち明けます。このとき母に、夢の世界を肯定されたことで、それが現実に負けない体験であることを、現実に属する母によって認めてもらえます。

このとき認められたのは、言ってみれば、彼自身の選択です。

 

彼は現実の自分自身を価値のないものと感じていました。

上手く動くことのできない、何も達成できない自分を価値のないものと認識した。だからこそ夢の中で、彼の思い通りにうごくことができるその世界で、ティナに肯定されることにやみつきになりました。

現実世界を疎外し、夢に傾倒する。その後、夢を認められることで逆説的に現実の彼(というか夢と現実を含めた彼そのもの)を肯定する。これが現実パートでの物語です。

 

これに対し、異世界パートは、決して従物ではありません。夢の中でのティナとの交流は、彼にとって夢ではなく実際に起きた重要な出来事です。

異世界パートでは、主人公は召喚された火竜となっています。彼はティナという少女を守り、ともに戦うことで自らの価値を見出していきます。

その自らの価値が、病気の回復によって失われる。このとき彼が考えたのは、ティナが危険な目にさらされるという事態への恐れです。彼はティナを守るために、ティナがこの先無事で生きていけるように、仲間を作ることを提案します。

ティナは人間を苦手としており、主人公の願いにも首を振り続けます。ここで主人公が戻ってしまうので、主人公側からはティナがどうするのかはわかりませんでした。

 

第六話では、ティナの行ってきたことが口頭で語られます。ティナは成長していました。自分の手で成長し、仲間をつくり、魔王に立ち向かうことができるようになっていました。

自分の想いが伝わったことが、目の前に展開された。ティナはもう自分の守りがなくても立派に戦うことができるようになった。主人公は安心して、元の世界に帰ります。

だとすれば、第六話は主人公の行動の結果です。

 

本当に主人公が選択して行動を起こしたのは、第四話のラストですね。ティナと喧嘩するシーンです。

主人公は自分の思いを伝えようと必死にティナに訴えていた。伝わらないとわかっていても、彼の言葉が全て炎になってしまうとわかっていながら、叫ぶことをやめなかった。

彼は伝えることの難しさを乗り越えようとしました。

 

第五話で、彼は夢の世界をは母に伝えます。これは、伝えることの努力を彼が夢の中で経験したからこそできたことです。

夢があったから、現実世界の彼は変わることができた。それと同時に実はティナも成長しているとわかり、安堵した。

異世界では、彼はティナのことを考えて行動します。ティナの存在が彼にとって大事なものとなっていて、だからこそ、彼女を守るために行動した。思いを伝えようとした。

そういう努力が報われたという物語です。

 

現実パートと異世界パート。二つの物語が干渉し合う物語。

どちらのエピソードも、交わってはいません。現実で起きたことが異世界に直接反映されるわけではない。ただし、介在する主人公への変化があり、それが影響を生み出し、二つのエピソードが展開される。

どちらがメインかといえば、やはり異世界パートです。異世界があったからこそ現実が変わったのですから。

現実の方がサブというのは、ちょっと不思議な表現ですが、物語としてはありです。

 

サブエピソードの目的は、主人公の変化を明確にすることにあります。

たとえばメインエピソードだけでしたら、彼は願った、そして叶った、これで終わってしまいます。異世界パートだけを目で追ってしまえば、そうなっています。

サブエピソードは、主人公の変化を描くことで、メインエピソードの展開に説得力を持たせているのです。

 

二つのエピソードが影響し合う。

『僕が部屋から出た理由』の時点では、この構造を意識していました。

主人公と相手の女の子、二人のエピソードが影響して、今後へと繋がる。

ただ、このお話は結局文字数10,000字で留まりました。

書き込めば20,000字まで増やせたと思いますが、それは引き延ばしです。物語としての強度は10,000字相当だったのでしょう。

『火竜』との違いを考えて、メインとサブの構造を思いつきました。

メインとサブ、ふたつはそれぞれ独立した物語ですが、サブがあるからメインが引き立ち、説得力が生まれる。

これは今までの僕が意識できていなかった、物語の強度に関わる重点だと思います。

 

説得力は物語への没入感と直結します。

どれだけ素晴らしい物語でも、嘘くささがあると倦厭されます。世に言うご都合主義が典型ですね。物語の作者の意図が透けて見えると、没入感は失われます。

『火竜』は、主人公の願いの強さを、説明せずに、エピソードでしめすことで補強することができました。

上手く作用してくれた結果が、PVにも反映されたと信じたいですね。

 

強度があれば、物語に膨らみを持たせられます。説得力とは現実感です。既視感で潰されるのを防ぎ、物語の価値を高めるものです。

せっかく掴んだ感覚を忘れないうちに、次へ繋げていきたいと思います。

 

なお、ここまでの構造分析は全て、物語を書いて一ヶ月が経過した今の段階で行っているものです。

書いているときはもっと漠然としています。おさまりのいいようにまとめていて、できたのがあの作品です。

それぞれの描写に正解があるわけではないと思いますし、参考程度に留めていただければ幸いです。