雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

【感想】もしもし、運命の人ですか。(穂村弘)

前の部署の傍には図書室があり、担当の方が時折新しい本を仕入れていた。

大抵は業務に関わる内容だったのだが、たまに流行の本が入荷されることもあった。

その中で、『本当はちがうんだ日記』というタイトルを見かけ、つられて手に取ってしまった。

それが僕の、穂村弘との出会いである。

 

記憶は例のごとく曖昧になっているので詳細は書けないが、楽しく拝読し、その後『世界音痴』にも触れてひたすら納得を重ねていた。

出身大学が同じだったことも手伝い、冴えているとは言いがたい見た目や黒縁眼鏡などの要素から共通点を見出して共感を高めていたと言える。

 

だからこそ、今回『もしもし、運命の人ですか。』の解説には驚かされた。

曰く、穂村弘は共感を招く要素、ちょっとだらしない感じや世間からズレている様子の体現をすべて計算しているのではないか。

 

そういう捉え方もあるのかと、ちょっと衝撃を受けた次第。

言わずもがな、僕は全然計算していないし、功を奏してもいない。

共感だと思っていたものは一体何だったのだろうと思いつつ、これも感想のひとつだと思うことで納得する。

 

『もしもし、運命の人ですか。』

恋愛エッセイ集なのだけど、むしろ恋愛に対する懐疑的な視点が独特で、癖になる面白さだった。

僕のお気に入りは「恋と自己愛」の項。

自己愛が社会の都合上定められた罪というならまだいい。

だが、例えば、一般に無償の愛とみなされがちな母子愛が、「自己の分身を無条件に愛する」という意味での自己愛の究極系だとしたらどうか。愛は生命の連鎖を補強するための単なる道具ということにならないか。

などと理屈を捏ねながら、本当はわかっているのだ。

私が他人の自己愛に敏感な理由のうち、現実的に最も大きなものは、私自身の自己愛の強さに他ならないということを。

 僕の趣味で堅めの文章を選ばせてもらっているが、全体的にはちょっと残念な具体例を交えた緩いエッセイですし、気楽に読むことができますよ。

 

 

もしもし、運命の人ですか。 (角川文庫)

もしもし、運命の人ですか。 (角川文庫)