【感想】7月のちいさなさよなら(石川博品)
昨年の末、『僕とキミの15センチ』(ファミ通文庫)という本を読んだ。これは15センチをテーマにしたアンソロジーで、参加者は基本的にライトノベルを発表している方々だった。
ライトノベルを読みたいと思いつつ、長く続くシリーズを読む気力がなかなか湧かなかったので、短編ならば楽しめそうだと思ったのがその理由だった。
これが思った以上に当たりだった。
全部が全部、好みに合ったわけではないけれど、はっきりと面白さの伝わる作品が多かったように思う。
気がついたら時間が経ってしまったけれど、特に印象の強かった表題作について書いておきたい。
『7月のちいさなさよなら』
四月から引きこもりをしていた主人公の少年が、祖母の頼まれ蔵にお供えをしに行くと、神様が祀られているはずの場所にて小人の女子たちと出くわした。実は彼の家の蔵は小人たちの女子校となっていた。お供え物は彼女らの給食だ。
お供えを続けて一ヶ月もすると、小人たちの学校では卒業式が始まった。時間の流れが、人間のそれとは違うのだ。親しくなった小人の少女も、あと二ヶ月でお別れのときがくる。
ずっとこういう時間が続くんだと思っていた。学校というのは、ずっとそうだったから。退屈な時間がくりかえされる場所だったから。
それが急に動きだした。動けない俺だけが置きざりにされる。
雨漏りがブルーシートに当たってぱたぱたと音を立てる。聞いているとやがてその間隔が短くなっていくように感じられた。口の中のパンをもぐもぐと咀嚼する。俺は焦りに駆られてそれを強引に呑みくだした。
詳しくは書かれていないけれど、主人公はおそらく変わり映えの世界に嫌気が差して引きこもっていたのだろう。
でも本当は様々な変化が起きている。小さな別れが毎年起きていることに、小人たちを通して、主人公は気づく。
卒業して遠くの世界に旅立っていく。現実の世界とまったく同じように、小人たちはいなくなる。そしてもう戻ってこない。学生でなくなってしまえば、学校にはいられないのだから。
小人たちの様子を描きながら、主人公の気持ちを考えさせられる。
敢えて誇張しては書かれていないからこそ、終わることが決まっている学校生活の切なさが胸に染みたように思う。
短い文章の中に大事なことの詰まった、味わい深い作品でした。
『僕とキミの15センチ』の中では一番のお気に入りです。
この短編集自体がカクヨムでの企画だったらしく、収録作は全てカクヨムにて読むことができる。
7月の小さなさよならはこちら。
前編 4月5月 - 僕とキミの15センチ(ファミ通文庫) - カクヨム
後編 6月7月 - 僕とキミの15センチ(ファミ通文庫) - カクヨム