雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

『三日月転じて君を成す』について(前)

2017年ブーン系紅白の話

※自作品のことしか話しません。感想を読みたい人は余所に行きましょう。

 

8月に行われたブーン系作品投下祭り「ブーン系紅白2017」にて、拙作『三日月転じて君を成す』を投下しました。そのことについて書いていきます。

 

経緯

2017年において、まず1月に衛兵王女二十一話の投下、5月下旬に二十二話の投下がありました。

( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第三部 - 1465560104 - したらば掲示板

 

なお、5月から6月にかけてはコミケに出展されたブーン系作品紹介本への寄稿文も執筆しておりました。

ブーン系小説紹介本第二弾 - 市町都村 - BOOTH

 

ブーン系紅白の開催を知ったのが6月の後半。

『三日月転じて君を成す』の構想はその頃から練り始めましたが、7月末に大幅な卓袱台返しを敢行したので、振り出しに戻り、実質一ヶ月で書き上げました。

なお、同祭りに投下した『きみのうんこをたべたい』は当日にⅠ時間ほどで執筆、推敲をし、そのまま投下していました。

 

声にまつわるあれこれ

何年か前に、雑多なプロットを1週間で100本練るというトレーニングをしたことがありました。参考元は大塚英志の『物語の体操』です。やりかた自体はネットでググればすぐわかる。物語の要素を六つに分類し、カード分けしてシャッフルさせ、思いつくままにストーリーをつくるというあれです。

https://www.amazon.co.jp/物語の体操―みるみる小説が書ける6つのレッスン-朝日文庫-大塚-英志/dp/4022643005

 

このときのプロットは本当に練習であり、パソコンが壊れるとともにデータも失われてしまったのですが、もっとも記憶に残っていたのが、「亡くなった彼女の声を耳栓に込める話」でした。

耳栓をしている間だけ彼女の声が聞える。その声を狙う輩が現われ、北の国へ逃げる。そこで時計台の小屋に幽閉され、声で時報を知らせる少女と出会い、彼女の声が掻き消されないようその子を殺そうとする、という筋書きでした。

発想の大元は村上春樹の『羊をめぐる冒険』とかweb漫画の『あたし、時計』だったかと思います。

Amazon CAPTCHA

電脳マヴォ:小田桐圭介・傑作選 あたし、時計/小田桐圭介

 

声以外を失うお話は一度一般小説の方でも考えていましたが、筆が乗らず断念。途中経過はノベルジムという投稿サイトに置いてあって……ノベルジム……?

ノベルジムが閉鎖したようです。 - 小説制作所

oh...

 

ほかにも、声にまつわる発想を逆転させた作品を書いたこともありました。綾月という創作サークルさんに寄稿した『声がなければ』という作品です。

ayaduki

タイトルから察せられるとは思うのですが、こちらは自分以外の全ての人間の声が失われた世界の物語です。

ちなみに綾月もまた活動停止中……中の人たちはノクターンノベルズだとかムーンライトノベルズだとかで天下を取ってます。ご興味あればググってどうぞ。

 

なお、こちらの『声がなければ』は第三回テキストレボリューションズ(以下、テキレボ)というイベントにて、300字SSポストカードラリーという企画に参加したときに、同一世界観の300字SS『私じゃない私』をポストカード化しました。同作品はテキレボや文学フリマ(以下、文フリ)にて順次頒布されました。在庫は多分、もうないですが、300字SSポストカードラリーのHPに行けば読むことが出来ます。

http://300.siestaweb.net/?p=2586

 

人間生きていればいろんな縁が生まれるものなんです。

半分は宣伝というか、こんなことやってたんですよという報告みたいなものなのですが

何が言いたいかというと「声」にまつわるイメージは僕の中で散々捏ねくり回した題材だということです。

おそらくその原因は『物語の体操』あるいは神話の構造を持ち出す小説作法本にあります。神話の主人公は何かが失われるのが通説なのだっていうあれです。

 

一度執筆を断念した「声以外が失われる話」は、ひとまずこの度の『三日月』で昇華できたかなと思っております。

 

執筆(前)

耳栓に籠った彼女の声。敵が現われ、逃亡するお話。

最初はこの構想からスタートしました。

 

どうして主人公は彼女の声を耳栓に入れるのかといえば、まあ忘れられない気持ちを具体化させたってことになるでしょう。つまりこれは死を受け容れるかどうかの話になりうる。

主人公に相対する人を想定したとき、パターンは二つありました。彼女の死を忘れられない主人公を肯定するか、否定するか。僕が選んだのは前者でした。それとほぼ同時に、キャラクタはジョルジュがしっくりきました。肯定と否定どちらに傾いても違和感がなかったからです。

この段階では主人公はモララーにしていました。一番ニュートラルなので考えやすかったからです。

身体をヒロインは素直キュートでぶれなかったです。やかましいキャラにしたかったのですが、物語のテンションを考えるとそこまで脳天気にもできませんでした。○の活用方法もこのときにはすでにできあがっていましたね。

 

主人公はどんな人にするか。最初は社会人のつもりでしたが、逃亡という行動の幼さがどうにもしっくりこなくなり、学生を想定することに。高校生か、大学生か。結局は大学生となりましたね。

何をしている人かを考え、銘々のサークルを検討したのですが、結局は演劇部となりました。声だけが聞えるという状況がストレートに作用してくれそうだったからです。

この段階ではジョルジュは演劇部の外の友人程度の存在でした。演劇部の部長が他におり、最初はショボンだったかと思います。

 

次は物語の目的です。主人公は何に悩むか。先ほども述べた通り、死を受け容れるかどうかがジレンマの元になってくれます。主人公はキュートの声の残ることを望み、それを聞き続けている。しかし、主人公の目的がいささか観念的すぎた。模索した結果、声は彼女の方から降りかかっていることにしました。

では彼女が声だけを伝えてきた目的は何か。声があれば主人公は自分を忘れられなくなる。それを目的としたら趣旨が変わってしまいます。彼女は主人公に未練を残さないようにしたい。自分を忘れるように、あえて声を残す。突然死んでしまった自分のことをスムーズに忘れられるように誘導する。具体的に言えば新しい彼女づくりだ。そしてそのことは主人公に伝えない。ここまで考えてようやく、何故彼女の声が聞えるかという根本の物語のトリックを思いつきました。

ちなみにトリック部分を詳しく説明することもできたのですが、SFや超常現象めいた解説を必要とする物語じゃなかったので切り取ってしまいました。

要らないとは言いつつ、気になる人にあえて言うならば、タカラの身体はキュートの構成要素を分解、再構築することでなりたっています。よって身体が縮み、血液量が少なくなってつねに青ざめていますが、男の身体をしています。したがってペニスはあります。しかし精通はしていません。肉体的記憶が薄れており、ジョルジュに指摘されるまでオナニーするという発想自体が思い浮かびませんでしたとさ。うん、書かなくて良かった。

 

身体を失う要因として、当初は悪魔の登場を想定していました。キュートの悩みを聞いて身体を失わせ、タカラの身体を戻した人物です。キャラクタはツンかデレのつもりでした。あんまり関係ないけどメフィストデレスという名前を思いついてしまったのでねじ込みたかった。が、最後には消えた。

 

主人公について、彼の目的は彼女作りと定まりました。彼女については仮として素直クールを据えていました。ミステリアスな女性にしたかった。

主人公は仮としてモララーを据えていたのですが、基本のキャラばかりになるのが居心地悪く、ブーン系における幅を広げるためにも別のキャラを検討することにしました。とはいえあんまり冒険する度胸もなかったですね。最終的に選んだのはタカラ。この段階でいくつか試し書きしていた台詞にあてはめて、違和感が少なかったからです。

タカラといえばでぃということで、彼女については素直クールからでぃに変更。このときはそこまでこだわらなかった気がします。でぃさんはどうしてタカラど出会うかを考えて、演劇部と絡めることにしました。同時に演劇部の部長としてモララーを想定しました。

 

さて敵組織はどうしよう。最初は軍事利用を目論む輩を考えましたが、やはり無理があるなと断念。あの世からの声が聞えるというオカルティックな状況を踏まえ、霊媒師か超能力者集団を考えていました。『七瀬ふたたび』ですね。

https://www.amazon.co.jp/七瀬ふたたび-新潮文庫-筒井-康隆/dp/4101171076

敵というよりは、キュートの声の本質を見抜こうとする輩。主な敵はハローさん、その部下としてエクストを加えることにしました。

 

役者は揃ったので執筆の開始。とりあれず一ヶ月書き続けまして、七月後半。四部構成の物語の三部に差し掛かったとき、卓袱台は唐突にひっくり返りました。