2016年の読書遍歴を総括する(前半)
毎年この時期になると総括記事を書きたくなるものです。
いつもは読んだ本をまとめて羅列して、いくつかお薦めの本をピックアップする、という形式でしたが、だんだんしんどくなってきました。
そもそも羅列することにどんな意味があるのか考えて、それよりはもうちょっと掘り下げてみたい。
というわけで、今回は流れを重視して、自分が一年間どのようなことを考えながら読む本を選んできたのかをざっくりまとめてみたいと思います。
1月
今年初めの読書は『名文』(中村明/ちくま学芸文庫)でした。辞書等でいつもお世話になっている中村明さんの著作。名文とは、心に引っかかる文章とは何かを捉え、ご自分にとっての名文をたくさん教えてくださった。続く『悪文』(中村明/ちくま学芸文庫)も読みましたが、僕は『名文』の方が面白かったな。
『名文』の中で紹介されていたうち、特に心惹かれた『紫苑物語』(石川淳/講談社)を早速読む。戦前の作品だからといって全く色あせず、綺麗で、ときには剛胆で、むしろ返って読みやすかった。心に残った作品です。
また、せっかく年が明けたのだからということでシリーズ物を読んでみようという考えに至り、図書館に行って『三国志』(吉川英治/新潮社)を手にとりました。一巻から初めて、読み終えたのは6月頃だったかな。登場人物とスケールの大きさに食らいつく感じでの読書。面白さの一端に触れた気がします。
学術本の方では『感じる情動・学ぶ感情――感情学序説』(福田正治/ナカニシヤ出版)を読む。秋に頒布した拙作『From AI to U』の参考文献です。この時期に読んで、それから本腰入れての執筆でした。
漫画の方では『僕だけ絵がいない街(7)』(三部けい/角川書店)。最終刊まではこの時点であと四ヶ月ほど。リアルタイムで追えた作品は珍しかったので印象深かったです。
2月
ちまちま読んではいたのですが、特に記憶に残っているのは『ゴースト・ボーイ』(マーティン・ピストリウス/PHP研究所)です。身体のほぼ全ての機能が失われた少年が大人になるまでを描いた自伝。物を書けるくらいの伝達能力をいかにして身につけたのか、何を考えてすごしていたのか。葛藤や苦難はもちろんのこと、コミュニケーションの大切さを改めて教わった。
3月
Twitter上で耳にした『一ヶ月に二冊文庫本を読もう』的な運動に感化されて二冊購入。選んだのは『サクリファイス』(近藤史恵/新潮社)と『愚行録』(貫井徳郎/創元推理文庫)でした。『愚行録』は来年映画になりますね。『サクリファイス』については、まさかロードバイク物だとは! という驚き。タイトルだけで選んだことがもろにバレる感想です。ミステリとしても面白かったですよ。
他、『ミート・ザ・ビート』(羽田圭介/文春文庫)がそれなりに面白かった。前々から気にはなっていた羽田さんの著作をようやく読めた具合です。
漫画の方では『ハクメイとミコチ』(樫木祐人/エンターブレイン)に出会いました。漫画に限れば今年一番の出会いだったと思います。面白いしためになる! 生きているって感じです。
4月
『ハクメイとミコチ』の衝撃に駆られ漫画への投資が相次いだ月。『百万畳ラビリンス』(たかみち/少年画報社)が大当たり。これは傑作SFです、間違いなく。思えばこの頃からSFへの興味がふつふつとわき始めていたのでしたね。
『BLUE GIANT』(石塚真一/小学館)や『ハクメイとミコチ』の既刊を買い去り、後半では当時アニメが放映されていた『ふらいんぐうぃっち』(石塚千尋/講談社)に手を伸ばしてみたり。『黒博物館 ゴーストアンドレディ』(藤田和日郎/講談社)もこの時期でした。
小説の方はというと、『ダイナー』(平山夢明/ポプラ社)及び『百瀬、こっちを向いて。』(中田永一/祥伝社)を読みました。『ダイナー』はナンセンスでバイオレンスなお仕事小説。『百瀬、こっちを向いて。』は著者の別名義(乙一さんです)で鍛えられたミステリ風味の青春小説。まったく傾向は別なのですが、それぞれ別な理由でとても面白かった。記憶に残るんですよね。
5月
次に読む本がなかなか見つからずにいた時期。学術本の方では『新しい日本語学入門』(庵功雄/スリーエーネットワーク)や『物語の構造分析』(ロラン・バルト/みすず書房)なんかを読んでわかった気になる。会話術やノート術、仕事術の本も読みあさっていたね。
小説では又吉直樹の読書本を立ち読みし、紹介されていた中から『家守綺譚』(梨木香歩/新潮社)を選ぶ。これがまた大当たり。梨木さんを読みあさりたいと意気込むきっかけとなる。
『スティル・ライフ』(池澤夏樹/中央公論社)、『薬指の標本』(小川洋子/新潮社)、『心に龍をちりばめて』(白石一文/新潮社)、『ズームーデイズ』(井上荒野/小学館)と読み続け、月末には『ロング・ロング・アゴー』(重松清/新潮社)で大いに笑わせていただいた。
6月
鉄血のオルフェンズの影響で、キャラデザを担当されていた伊藤悠の『シュトヘル』(伊藤悠/小学館)を手に取る。その他、古本屋を漁って『自殺島』(森恒二/白泉社)を読む。続きを読みたいと思いつつなかなか買えていない。
小説では『トゥルー・ストーリーズ』(ポール・オースター/新潮社)が面白く、同作者の『オラクル・ナイト』(ポール・オースター/新潮社)を読んでわかった気になる。もうちょっと読みたいと思いつつ結局そのまま。
『羊と鋼の森』(宮下奈都/文藝春秋)を人に薦め、又吉の影響で『杳子・妻隠』(古井由吉/新潮社)に触れ、なんとなく『アムリタ』(吉本ばなな/角川書店)を読む。かつては福武書店というところで出版されていた本であり、福武書店とは現在のベネッセである、などという雑学を憶える。そんな具合でだらだらと読んだ。
ここまでで前半の終わりとし、続く7月からは次の記事とする。