BLUE GIANT(5)
BLUE GIANTの五巻を購入しました。漫画の感想は初めてですが自分なりにやってみようかと思います。
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表紙を飾るのは四巻のラストで顔見せをした新キャラクター、ピアニストの沢辺雪祈。目を閉じて左手だけで音色を奏でる異色のスタイルを持っている。よくよく字を見れば思いっきりネタバレされているのだけど、とりあえず今は触れない。
前巻で高校を卒業し、上京した主人公・宮本大。サックスが吹ける場所、ジャズが聴ける場所を求めてさ迷い歩き、辿り着いた隠れ家的なジャズバーで雪祈の演奏を見つけたところから今巻が始まります。
独特のスタイルも際立つが、雪祈自身もかなりのジャズ愛好家。メンバーを探し求めている彼は、その条件としてジャズの才能を重視する。
「連中のやっているのはジャズでしょか?
ジャズっぽく聞こえる手グセの音楽、や…お遊びだね」
その裏にあるのは仲間内でぐだぐだ演奏することへの嫌悪。成長の可能性がなければ死にゆくだけだと持論を展開する。
ジャズが過去の音楽とみなされていることを否定する人はあまりいないだろう。雪祈の主張はジャズの再興への切実な想いであり、その実現の鍵が才能だと信じている。
だけど、雪祈も決して自分のことを才能があるとは思っていない。彼は朝起きてから夜遅くまで、常にイメージの中でピアノを弾いて過ごしている。
昼間も夜間もバイト漬け。大学生の身分だが、その大学にもほとんど通っていない。稼いだ金はジャズを聴くためだけに消えていく。音楽を愛してやまないからこそ、先も見えない中努力だけを積み重ねていく。
才能のある人物を求めつつ、雪祈は自分にこそ一番才能を求めている。その拮抗が、宮本大の才能に触れたときに露わとなる。
「心を揺さぶられて
完全につきぬかれちまった…」
大抵のことをものともせずにいた雪祈が、このとき初めて涙を流す。「感動してしまって」と言葉を濁すが、歯噛みするほどの悔しさがある。才能と努力の埋まりようのない差への憤りだ。
主人公は天才肌として描かれている。雪祈はその対比、努力型の人間の一極として登場している。別々の価値観が作中でもしょっちゅうぶつかり合うことで、人間ドラマに新しい厚みが生まれている。
その人間ドラマの新しい参加者が後半、37話から浮上してくる。宮本大とともに上京してきた同居人の玉田だ。
詳しいことは描かれていないが、大学生活にいまいち馴染めないでいた玉田。そんな彼は宮本大と雪祈の暑苦しいほどの交流をみているうちにジャズに興味を抱くようになる。
一番のきっかけとなるのが橋の袂での簡易なセッションだった。玉田にドラムをやらせる案を思いついた宮本大は雪祈に紹介する。サックス、ピアノ、ドラムが揃えばトリオが結成できる。
だが、始めたばかりの初心者など雪祈は求めていない。彼は玉田の加入に抗議する。
それでも一応セッションするのだが、もちろん上手くいくはずもなく、玉田は現実の厳しさを痛恨する。
「玉田君
さようなら」
雪祈が笑顔を絶やさないのは、玉田を煽っているわけじゃない。彼は努力を積み重ねてきたからこそ、その大切さを知っている。当然の結果を最初から受け止めきっていたのだろう。
宮本と雪祈の対立は才能と努力との差だったが、一方で雪祈と玉田の対比にはかけてきた時間の差がある。これこそどうしようもない部類のものだ。雪祈はさっさと玉田のことを忘れようと、新しいドラマーの引き入れを検討し始める。
だけど玉田は諦めなかった。彼は既にジャズに取り憑かれていたのだろう。練習用の機材を買って、子供向けの練習教室にまで通って、ジャズに食らいついていく。新参なのに、経験者に追いつこうと必死になる。
雪祈は玉田が気に食わない。だからどれだけ努力しようとしても突き放そうとする。甘っちょろい素人の努力など、彼には到底受け入れられるものではなかったから。
そこへ、宮本大が割り込んでくる。
「ここで玉田を追い出すのは簡単だべ
ジャズの入り口を、間口を狭くして…追い出して追い出して誰も通さねえ
でも、だから…
だからダメなんじゃねえの?
だからジャズがダメになるんじゃねえか?」
新しい人を受け入れること。それこそが大事なのではないかと彼は説く。だからジャズが古い音楽に成り下がったのだとも言う。
プロとアマがいる世界。プロは上手くなろうとし、プロを目指す人は技術を極めていく。時間や経験が物を言う世界だ。だけど一方では純粋にジャズを楽しもうとする層がいる。その人たちを汲み取ることは果たして良いことなのかどうか。簡単に答えが出る問題ではない。
宮本大と雪祈の価値観の対立は玉田を介して明確となる。だけどそれは傷つけあいじゃない。対立はするが、雪祈は宮本大の考えを知り、身を案じ、そして最後には玉田を育てる決意をする。
五巻はここで終わり、次巻へと続く。
新しい登場人物、雪祈を中心に話展開していく。この巻だけでも、彼の心理は揺れ動いている。その変化を追っていくだけでかなり楽しむことができるのではないだろうか。