雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

【アニメ感想】SSSS.GRIDMAN

導入、現代について

『SSSS.GRIDMAN』

記憶を失った少年が、自分だけに見えるヒーローの呼び声に促され、街を守るために怪獣を戦う物語。

 

この作品が特撮の作品『グリッドマン』を元にしていることは、意識して調べようとしなくても、Twitterを眺めていれば自然と頭に入ってきた。

グリッドマン』の放映から25年、様々な要素が付け足され、現代風にアレンジされていることは、元作品を知らなくても感じることができた。

 

ほとんどBGMが流れず、環境音で構成されている第1話(唯一流れるのがグリッドマンの登場シーンであることも興味深い)やyoutuberのような流行の要素、本編ではないけれど、まるで一般人の会話を聞いているかのような良い意味で生々しいボイスドラマ。

今にして思えばあらゆるところでフィクションっぽさを排除するように巧みに演出されていたのだろう。

だから、あの世界の真実が明かされたときは少なからぬ衝撃があった。

 

以下の文章はネタバレ込みの感想文なので気をつけていただきたい。

 

 

 

この物語の主人公は響裕太で、彼の暮らすあの街は全て新条アカネが作り上げたものだった。

作られた側の人から、作った人を見つめるという構造は、言葉で言うと複雑だけど、先に述べた現代に寄せた演出のお陰で違和感なく受け容れることができた。

 

虚構と実感

新条アカネは自分の中で世界を作った。それが響たちの生きる街だ。

作ったとはいっても、全てが意のままになるわけではない。もしもそうであるならば、彼女が苦手とする人も、行事も、存在する必要がない。

存在してもいいけれど、自分には危害が来ないでほしい。

あの街の中で新条アカネが具体的な根拠もなしに羨望の的になっていたのも、そんな意識からなのだろう。

第1話、第2話では、あくまでも自分にとって危害が加えられたときにのみ、彼女の中で破壊衝動が生まれ、怪獣が作られる。

第3話以降は破壊の対象は明確にグリッドマンを指すようになるけれど、きっと彼が登場する以前から、破壊と再構築は繰り返されていた。逆に言えば、グリッドマンによってその繰り返しが中断された。

新条アカネがグリッドマンを倒そうとするのは、自分の中にある、あの世界を守るためだ。いくらでも破壊することができ、それを誰にも咎められない。怪獣を作って見せても「かわいい」の一言で済ませてくれるような、彼女が好きにすることを許されていた世界を。

 

そんな新条アカネの思考を前にして、響や立花たちは、それでも彼女を助けようとする。

作られたもの、そして壊される側にあるのに、創造主のために悩み、諦めずに手を差し伸べる。

それを虚構だとしている限り、新条アカネは救われなかったことだろう。

たとえ自分が作った世界だとしても、自分のために向けられた声であり、救いの手だと自覚できたから、最後の最後に、新条アカネはあの言葉を言うことが出来た。

 

アニメに限らず、物語はどれも虚構なのだけど、でも空虚ではないんじゃないか。

そんな前向きな話だと、僕は思いました。

 

世界の外側

新条アカネが抱いた破壊衝動の理由は明かされていない。

あの世界の外側、創造主である新条アカネが直面している本当の問題は、作中には描かれていない。鬱屈とした表情や、世間に向ける諦観から、それとなく推し量ることはできるけれど、断定は出来ない。

これのような、「見せない」描写も、特徴的なことだと思う。

 

主人公の響からして、作中の最後の方で、彼の中にいるのはグリッドマンその人であり、本来の響裕太の意識は眠ったままだと明かされる。

それでいて、響裕太が存在しないかといえば、そうではないだろう。内海と友人で、立花に想いを寄せていた響裕太は確かに存在していた。作中では出てこないだけだ。

『SSSS.GRIDMAN』はもちろんアニメという、作られた世界だけど、その枠は作品を越えて存在していると感じさせる。

 

作中の重要な真実を明かすアノシラスという少女も、作中では全く正体を明かされないけれど、ちょっとでも検索してみれば、彼女が元である『グリッドマン』の第6話のみ(『SSSS.グリッドマン』でも第6話のみ)に登場した怪獣で、しかも『グリッドマン』の中では唯一、敵の手によってではなく始めからこの世界にいた存在として描かれていることがわかる。

つまり、グリッドマンに助けられた恩から、『SSSS.GRIDMAN』の世界にひょっこり現れて、救いの手を差し伸べてくれたってわけなんですね。

 

まとめ

いつもは小説の感想ばかりを書いているので、アニメの感想を書くのは随分緊張する。

だいたいちょっと調べれば、どこでそんな知識を蓄えたんだってくらい博識な感想ブログは山ほどあるし、Twitterでも深い考察が述べられている。

免罪符的に繰り返しているけれど、僕は元ネタの作品のときは赤子だったので記憶はないし、アノシラスを調べたときに若干情報を仕入れたくらいで、他に知識はない(あ、でもテーマソングはTwitterで流れてきたので知ってましたし驚きました)

だから感想を書く意味は、外への発信や啓蒙はよそにまかせる。

僕は僕で考えたことを書いているので、違っていたり、見当違いであっても、それはご容赦いただきたい。

 

『SSSS.GRIDMAN』

3ヶ月間楽しませていただきました。

何かを作るという行為に向けて、真摯に向き合った作品だと思います。

この作品を追いかけることができて良かったです。