【感想】GOTH(乙一)
積ん読の消化をした。『GOTH』だ。
読み終えたこの本は夏頃にBOOKOFFで買ったものだけど、本当は高校生の頃にも一度手に取っていた。そのときは読み切れなかった。まだ読書に慣れていない頃でもあったし、読み進める体力がなかったんだと思う。
度々書いているような気がするけれど、乙一作品には長いこと苦手意識があった。
学生の頃の僕は人付き合いが苦手だったけれど、世間に背を向けて平然としていられるほどには強い意志をもっていなかった。一人きりでいるのは不安だった。そのような状態を志向するのは危険だと、なんとなく察していた。
引っ詰めれば、人と違うことは忌避すべきことだった。
そして乙一作品には、そのような差異を、隠すこともなくありありと描いているような気がして、それがとても怖かったんだと思うのだ。
苦手意識が消えたのは、中田永一名義の作品を読むようになってからだ。
純粋にミステリとして面白かったし、元々の名義である乙一の作品も、読み返す意義があるように思えた。
僕はもう社会人になっていた。
幼い頃の恐怖心は、渋々道を譲ってくれた。
まあ、積ん読しちゃっていたのだけどもね。
GOTHの話をちょっとする。
人を寄せ付けない少女の森野夜と、人の死に惹かれる「僕」の物語。
夜の章と僕の章、ふたつに別れている。番外編もあるらしいけれど、とりあえず手元にあるのはこの二冊だった。
前半は森野、後半は「僕」に焦点を当てている、ともいえる。ちょっと言い切れないけれど。
昔読んだときと比べて、ちょっと違うことに気づいた。
これは概ね「僕」の視点で描かれている。
昔の僕(ややこしい)が苦手と思っていたあの空気、乾いた、閉じた世界観は、視点である「僕」の視点だったのだ。
「僕」は世間とのズレを自覚し、それを悟られないように、まるで人畜無害な一般人のように振る舞っている。それでいて心の中には常に虚無を抱いている。
クラスメイトの中でただひとり、森野だけがその空っぽさに気づいた。自分と彼が、似ていると思って、接触を試みる。
いくつかの小話を経て、森野は結論を口にする。
これは一人きりを称賛するような物語ではなかった。
やっぱりまだうまく言えないのだけど、世間とのズレに、それぞれのやり方で立ち向かうような感じだ。
主人公は人間らしくないと、作者本人が卑下するけれど、そうは言い切れないと思う。
ズレがあり、自覚しながら、世間に首を傾げて、それでも世間の中で生きていくしかない人間のお話。
猟奇的な描写や、心の闇とかいうものへの共感を呼び起こす筆致。ミステリ的な仕掛け。もちろんそれもあるし、十分ウリでもあるのだろうけれど、僕としては、全体を俯瞰しての、歪みながらも人間である彼らの描写に一番心惹かれました。