雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

奇談収集家ミスター六軒について

21世紀が始まったばかりの頃、実家にパソコンがやって来た。どういう経緯だったのかはわからないが、これから必要になるものだからと、両親のどちらかが工面してくれたのだと思われる。僕は小学生の半ばで、将来のことなど微塵も考えられず、パソコンはゲームの公式サイトを眺めるのに使う程度だった。

web小説をいつから読むようになったのか、どうして読むようになったのか、今となっては思い出せない。家に小説はなかったのだけど、物語を楽しむことは好きだった。動画サイトはまだ出てきていなかったし、パソコンの設置場所が居間だったのであまり派手なのは憚られた。そのあたりの事情で、当時できたばかりだった「小説家になろう」や「ライトノベル法研究所」に入り浸っていた。

そのうち他の小説はないものかと、ネットサーフィンを繰り返して、タイトルにもある「奇談収集家ミスター六軒」というサイトを発見した。オリジナルの創作小説を発表している個人サイトだった。

 

気楽に読めるギャグテイストの話から、胸を締め付けられるような苦しさのある話。ミスター六軒に設置されていた小説は、いずれにしても、人間の性質をえぐり出すような作風だった。

僕はのめりこんで、何度も読み返した。最終更新日は僕が閲覧する一年ほど前で止まっていたのだが、続きが来るものだと信じて、二年ほど毎日確認したが、音沙汰なかった。タイミングが悪かったのだと嘆きつつ、その後もしばらくは作品を読んだ。高校生になって、勉強に忙しくなり、パソコンを調べ物以外では触らなくなる頃までは。

 

それから十五年、僕は自分で小説を書くようになった。

「ミスター六軒」の影響は大きい。最初の頃は、このサイトに載っていた作品とどこか似通った作品が多かったように思われる。不思議なことが起きて、人間がどうしようもなくて、それでも諦め切れない話。

「ミスター六軒」のような作品を書きたいと、しばらくは想い続けていた。

 

こんなことを書きたいと思ったのはほかでもない、ミスター六軒のkindle版が発売されているのを知ったからだ。

 

奇談収集家ミスター六軒

奇談収集家ミスター六軒

 

 およそ二年前、作者様は活動を再開された。サイトを確認したら一新されており、今後はkindleでの販売に注力するとの旨が通知されていた。

存命だった――失礼ながらまずそう思った。僕の中では、すでに小説から遠ざかっているものだとばかり思っていた。命に関わらなくても、一度離れた人が再び戻ってくることは考えにくく、だからこそサイトを見るのもやめてしまっていた。

嬉しいなあ。

kindle版では第二巻まで発売されており、これから順次第三巻、第四巻、第五巻と発売される構想となっているらしい。

 

まだ続きが読める、その嬉しさに居ても経ってもいられなくなり、僕にしては珍しいこのストレートな心情をここに書き留めておく所存である。