雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

【感想】日曜日たち(吉田修一)

絡み合うということはどこかですれ違っているという意味でもある。

たとえ一緒にいたとしても、人と人とは違うもので、気づかないふりをしているけれど、少しずつ距離が生まれたり、不意に縮まったりする。

仲の良かったはずの友人が疎遠になったり、疎遠だったはずの家族が懐かしくなったり。

たとえ大きな冒険や挑戦を挟まなくても、ありふれた日々の情景に、人々の思いが交錯する。

 

短編集に加え、不思議な兄弟という共通項。このことから、ある種クロスオーバー的なエンタメ性を求めることもできる。

もちろんそれでも楽しいけれど、もうひとつ、この作品を読んで良いと思うのは、それらが徹底してありふれた日常であることだ。

毎週のうちに必ず日曜日は訪れる。だからそれは日常と地続きだ。普段の自分から少しだけ外れてみることもできる。

 

文庫サイズにして200ページ足らずなのだけど、様々な人間模様が描かれていて、実際以上に膨らんで感じられた。

読んでから時間は経っているのだけど、読み返すとすぐに情景が浮かんでくれた。これ以上記憶が曖昧になる前に、垣間見た人々の姿を思い起こして書き残した次第である。

 

日曜日たち (講談社文庫)

日曜日たち (講談社文庫)