雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

【感想】『先生とそのお布団』(石川博品)

以前、ライトノベル作家のアンソロジーの中で石川博品さんの作品をお見かけしたことがあり、ここでも記事を書いたことがある。

その流れで数年ぶりに書店のラノベコーナーに足を運び、この作品を見つけるに至った。以前読んだ作品と同じように、こちらもカクヨムに連載された作品であるらしかった。

 

一番印象に残ったのは、比較的早い段階に登場する校正の場面だ。

 

 一息に書いてしまってから読みかえす。

 三行目、ここでの行為の主体が「さくらと瑠莉」であることは明らかで、わざわざ書く必要はない。「ふたり」に変更する。

 四行目、「砂浜」が次の行と重なってくどいので全カット。

 そのかわりに五行目をすこしひっかかりのある文にして読むスピードを落とし、その落差によって場面転換を強調する。「夜の砂浜は月のひかりに白々と冷えていた」とあらためる。

 

 彼は文章の書き方を誰かに習ったわけでもない。ただことば自身が要求するとおりに並べていく。ごくまれに、ことばを出しぬくような文章が生まれるときがある。そういうときにはしてやったりと机の前でひとりほくそえむのだった。

 

僭越ながら思うまま言わせてもらえば、石川博品さんはラノベ作家としては変わり者だと思う。

この作品にしても、主人公は三〇代半ばのライトノベル作家だし、登場人物の中に青少年は皆無。

内容にしても、冒険も学園もミステリや凝った工夫もなく、繊細な心理描写すらない。

淡々とすすむじり貧の生活と、狭間に差し込まれるじわじわとした焦り、素っ気ない社会の中で唯一真っ当に意見を述べてくれる猫との交流。

物語そのものとは別のところでいたたまれない気持ちになってしまった。

 

ただ、文章はとても整っている。

先の校正の場面でさえ、僕からしてみたらとても丁寧に見えた。

元の文章はもっと長く、読み手の心情を考えた文章の組み立て方が垣間見える。

全編通してみても、考えられた言葉運びであることが伝わってきて、素直に感心してしまった。

ここまで考えて書くんだなと、言ってしまえば偉そうだけど、率直に尊敬する。

 

自分にここまでできるだろうかと同時に考えてしまう。

文章を書くことを僕はどこまで好きになれるんだろう。

そんなことを考えさせられる、優しいお話でした。