雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

【感想】風に舞い上がるビニールシート(森絵都)

 2017年の末に、その年に文芸雑誌に掲載された短編を寄せ集めたアンソロジーを読んだ。

テーマが特にあるわけでもなかったのに、そのうちの半数がミステリ風味なのが何だか気にくわなかったのだが、そんな中で一人、ミステリではない作品を書いていたのが森絵都さんだった。

 

昔、森絵都さんといえば、昔、「永遠の出口」という小説を読んだことがある。少女の成長の一場面を、一年おきに描くという風変わりな小説で、変わっていくところと変わらないところの両立がとても面白かった。

その後、あまり手に取ることはなかったのだが、この度せっかく名前を見かけたことに背中を押され、この短編集を手に取った次第である。

 

『風に舞い上がるビニールシート』

直木賞受賞作とのことだが、読み終わって裏表紙を見るまで気づかなかったので、その点特に影響は受けていないと思う。

収録作は六作品。それぞれ完全に独立の物語で、登場人物も多彩。すれすぎず、かといって光を浴びているわけでもなく、裏側にいるであろう人たちの姿をユーモアを交えつつ描いている。

 

個人的に一番好きだったのは、五番目の収録作である『ジェネレーションX』。若者と一緒に営業先への謝罪に赴いた会社員の物語。単純に読後が気持ちよいのが良い。

 

意外だったのは表題作の『風に舞い上がるビニールシート』で、これは作中の登場人物、国連難民高等弁務官事務所に所属するエドという男の口癖だ。

エドと親しい関係にある女性の視点で物語がすすむのだが、正直なところ、これまでの収録作とかなり毛色が違うので、驚きがついて回ってしまった。

ぎこちないところも感じさせず、同じだけのユーモアもある。視界が広がるような心地よさがあった。

 

決して前向きではない人たちが一瞬限界を破る姿が続く。派手な話でなくとも、引きつけられるには十分だった。今年初めに読んだ本ではかなり好みの一冊でした。

 

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)