雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

【ブーン系小説感想文】にゃー

 ネタバレ感想です。

 

 怖い話かと思ったら優しいお話でした。

 優しい? と疑う人もいるかもしれませんが、物を書いている身からすればめちゃくちゃ優しいと思います。

 

 

 学校の教室程度の真っ白い密室に閉じ込められた男女五人。

 部屋の中央には棺桶めいたチープな箱。

 天井のスピーカーが言うことには、中には男が一人、生死不明の状態で入っているという。

 箱の中の男が生きているかどうか。

 提示された問題を解き明かすべく、五人は議論を開始する。

 

 

 「シュレディンガーの猫」を彷彿とさせる舞台設定に密室心理サスペンスの定番ともいうべき設定が加味されています。

 些細なことだけどスピーカーが話し始めるまでの各人の動作の描写が細かくて、それでいてわざとらしくなくて良いですね。

 取り立てて騒ぐこともなく、ただ現実感に押し潰されてほとんど身動きが取れなくなる。取れたとしても自分の指先でちょっと摘まむ程度。

 この自力じゃどうにもできない感じがあるから、良くある設定だけれども腰を据えて読んでみようかな、っていう意欲を出させてくれました。

 

 あとはお話しの流れに沿って議論が進んでいきます。

 箱の中の男とスピーカーの声。そして五人の関係性。

 サスペンス、とさっきちらっと言いましたが、そんな複雑なことやエンタメチックなことは起りません。かといってくだくだしい心理ゲームでもなく、箱の中の男についての考察が緩急交えて進んでいきます。

 提示された問題は男の生死についてなんですけど、結局ヒントも無いわけで、話せるのはその男がいったいどんな人物だったかってことなんですよね。だから五人もそれについての議論を重ねる。新たな側面が開かれていく様は純粋に面白いです。

 

 以降、既に読んである人向けに書きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の最後に話すのがデミタスというのがまたいいですね。

 内藤ホライゾンの小説は細々とながら続いている。

 デミタスが最後に誤字を指摘したってことは、社会人になった現在でも、彼の作品が読まれていることを証明しています。

 案外一番の励みになったのはデミタスの最後の言葉だったのかもしれません。

 誤字脱字という、一部の読み手にとってはどうでもいいと思われそうな情報も、実は作者にとってありがたいものになりうる、という皮肉なのかもしれません。

 あるいはギコについても、キモいキモいと言われますが、実は最後に言う意見、結構真っ当だと思うんですよ。

(,,゚Д゚)「何が楽しくてこんなところへ呼んだのか知らねえが、アイツも、内藤も十分理解出来ただろ。
     てめえの小説をまともに読んでるヤツなんていねえよ! 
     てめえのクソ高いプライドやらを満たすことなんて到底無理だ、高望みしすぎなんだよ。

     そもそもてめえは、高校の時から勉強もおざなりだったよな? 
     そのくせ自分の小説だけは他人に理解してもらえると思ってんなら、とんだキチガイ沙汰だ。

     人並みに勉強できるわけでもねえ、人並みに仕事できるわけでもねえ、
     人として当たり前のこともできねえ分際のくせして、何が小説だ? 
     もうここまで来るとキモいとか引くとかじゃねえよ。単純にムカつくわ」

 

(『にゃー』>>45より)

 

 小説家としての内藤は否定するんですが、人並みの勉強や仕事から逃げている姿にむかつくというのは納得できる話です。

 言動は粗暴ですが、あくまでも一般人としての評価基準で内藤を見ているんですね。ある意味一番、内藤本人そのものを直視してくれています。

 嫌いは好きの裏返し、なんて言葉もありますが、興味がなければ否定もしない。ギコは内藤のことを何も覚えていないと言いますが、ぽろぽろと過去のことを話しているし、内心むかつく奴として覚えていたんでしょうか。考えすぎかな……

 

 ものすごく余談なのですが、僕も同僚に自分の小説をメールで送ったことがありましたが、半年間続けたにもかかわらず誤字脱字どころかコメントひとつもらうことなく立ち消えました。そんなわけもあって内藤はものすごく幸せ者だと思います。