雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

『ハクメイとミコチ(1)』(樫木祐人)[ネタバレあり]

 

ハクメイとミコチ 1巻 (ビームコミックス)

ハクメイとミコチ 1巻 (ビームコミックス)

 

  作者さんの名前は祐人と書いて「たくと」と読むんですね。今更知りました。

 

 前回第四巻を買ってみて引込まれましたので、買ってみました第一巻。一年に一巻のペースで出版されているみたいです。

 世界観についてなにか触れられているのかなとか思っていたのですがそんなことはなく、もういきなり小人たちの日常が展開されています。第一話の「きのうの茜」は元々読みきりで、評判が良かったので連載が決まったそうな。

 

 四巻のときに抱いた印象からさほど変わらず、ハクメイとミコチが工夫を凝らして生きていく。大きな波はありませんが、繊細な絵柄と、練り込まれた解説が、語るまでもなく独自の世界観を感じさせてくれる。

 

 第六話『舟歌の市場』にて、こんなやりとりが描かれます。いきつけのお店に立ち寄って一休みしているときに、ミコチが青い顔をして、財布を無くしたと気づく。

 

「市場でなくしたとなると少々厄介だねえ」

「そ それは 盗まれるとか そういう・・・・・・?」

「あーいやいや 世話焼きどものリレーでどこまで流れているやら」

 

 

 小さな二コマ程度のやりとりなんですけど、妙に記憶に残りました。これって作者の側からの宣言のような気がします。「このお話の中には、泥棒みたいな悪いやつは出てこないよ」っていうそんな感じ。実際に市場の人たちはミコチのことをたくさん気にかけてくれますし、財布も無事に持ち主のもとに簡単に戻ってきます。暗い話は一切なし。これは、この作品の他の話についても同じだろうなあと思いました。

 ストレス無く読むことができて、しかも十二分に楽しい。これはどうやって描いているんだろうなあ。知識量が半端じゃないのは見ての通りです。でも決して細々した知識自慢には陥らない。知識は日常に活用されてこそだと教わっているみたい。

 ハクメイもミコチもそれぞれの持ち味を活かして、日常生活に潜んでいる何かに気づいて、そこにどんな工夫があり得るのかをこっそり示してくれている。派手な展開や捻くれた発想なんてなくても、精一杯生きている姿を見ているだけでこんなに面白くなるとは思いも寄らなかったです。