雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

『愚行録』(貫井徳郎)

 

愚行録 (創元推理文庫)

愚行録 (創元推理文庫)

 

  どこから見ても評判の良い奥さんに順調な出世を歩む旦那さん、そして二人の子ども。絵に描いたような幸せな四人家族が一夜にして惨殺される。この事件の側面が、付近住民や被害者の知人へのインタビュー形式で次々と語られていく。話者本人の話したい内容も錯綜し、なかなか全貌が見えず、まさしく藪の中へと入り込んでいく。

 貫井徳郎さんといえば、デビュー作の『慟哭』の最後の一章を読んだときの衝撃が未だに忘れられません。本作『愚行録』も、入り組んだ構造の真相が最後の最後で暴かれる形式となっており、新本格派顔負けのどんでん返しが展開されます。とはいえ堂々とヒントは書かれているので本気になって気をつけていれば解けたはず。

 本作の面白さはインタビュイーの語り口にありますね。それぞれ本当に好き勝手に話す。内容はあちこちに飛んでいきますし、関係の無いような話しも、いずれ繋がるからと言い切ってどんどん話しを続けていきます。一人につき最低三つはエピソードを語っていきますね。正直なところもっと縮められるだろうと思わないでもないんですが、どの話も短編小説のような趣でさっくり楽しめます。だいたい後味悪いんですけどね。

 結局一番幸せな生活を送っていたのは誰なのか、考え出すと止まらない。詳しく知ろうとしなければ、愚行とは気づかない。そんなお話です。