雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

『紫苑物語』(石川淳)

著者 : 石川淳
発売日 : 1989-05-05

 先日『紫苑物語』の終わりの一節を読んで、あまりの美しさに衝撃を受けてすぐに本を買い求めました。表題作に加えて、『八幡縁起』及び『修羅』の収録となっています。

 とにもかくにも文章が美しい。美文調というわけではなく、読みやすいままに流れていく。幻想的な面もあるんだけど、それだけじゃ終わらない。日本人作家でこういう気分を思い起こさせる文章には初めてであったんじゃないかな。不思議だなあ。どうしてこんなに感動するんだろう。

 お気に入りはやはり『紫苑物語』です。元々読んでいたというアドバンテージもありますが、それを差し引いてもやっぱりいい。武芸と歌の相剋といえばいいのだろうか。物騒な面もあるけれど、コミカルな雰囲気もあって、ちょっとダークなおとぎ話を読んでいるような気分になった。

 『八幡縁起』はむしろぐっと男らしいお話ですね。スケールの大きさに引き込まれる。『修羅』はむしろ今の時代こそ気に入られるお話じゃないでしょうか。