雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

スイートフィッシュとジグソーパズル(色彩writer)

 第18回文学フリマで購入した、サークル名・色彩writer様の短編集、『スイートフィッシュとジグソーパズル』を読み終えました。

 明日、11月24日に開催される第19回文学フリマでも頒布されます。

 もう半年も前のことなので、手に取った理由ははっきりとは覚えていませんが、装丁がシンプルかつ綺麗にまとまっていて好みでした。

 短編集とはいっていますが、実は中心となる人物が共通しています。興をそいでしまうおそれがあるので深くは突っ込みませんが、しっかり人物設定をしてから五つの物語を書いたのだということがよくわかりました。決して大仕掛けがあるわけではありませんが、最後まで読めばその人物の内面が明らかになる形になっています。

 しかし、その中心人物こと、精神科医の鮎川は、実はどの短編でも主役ではありません。彼はカウンセラーとして登場し、描写は外部からの視点からのみです。この点が、とても巧く機能していると思いました。

 短編集は、ともすれば物語の仕掛けばかりに気を取られて人物の掘り下げが不十分であることがよく起こります。仕掛けだけでも書き上げることができる短編の性質上、ある程度は仕方がないのかもしれません。その点、『スウィートフィッシュとジグソーパズル』の鮎川は胸中が書かれてすらいない。でも、イメージするに足る出来事が起こるから、活きた人物として感じられるのですね。

 さて、もちろん短編としての面白さも忘れられてはいません。五つの物語にはそれぞれの主役がいて、それぞれの味があります。家族に関するテーマが割と多い印象ですが、僕が特に気に入ったのは三番目に収録されている『ハイド・アワァズ・リグレット』――社会人になったばかりの主人公が、大学時代に亡くなった友人と向き合う物語です。

 何より、構成が上手い。カメラと「後悔」のキーワードがちりばめられ、テーマとして浮き上がってくる。終わらせ方も綺麗にまとまっていて、最後の一文はこの物語にぴったり封をしてくれている。登場人物が本当に少ない中、ここまで清々しい気持ちにさせてくれる小説も珍しいと思いました。