雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

感想(小説)

【感想文】正しいからこそ怖ろしい――『空白の叫び(上)』(貫井徳郎)

久しぶりの貫井徳郎は、奇抜な構成を排した重厚なクライムノベルでした。 まだ上巻しか借りていない状態で感想を書くのは、結論がわからないために不安もあるが、それでも今のところ感じたことを書き置きしておこうと思います。 時代は二〇〇〇年の少年法改…

【感想文】多数派に飲み込まれないように――『僕は、そして僕たちはどう生きるか』(梨木香歩)

ノボちゃんは、僕の年頃ってのは、いろんなことを考える力を持ち始め、かつ先入観や偏見少なく(なしに、とは言わなかったな、うん)「考える」ことに取り組み始める貴重な時期で、人生に二度と巡ってきやしない。そういう時期に考えたこと、感じたことをき…

働かない人たちを掻き集め、世界の終わりに備えよう――『我もまたアルカディアにあり』感想文

アルカディアマンション。 どんなに胡散臭かろうと、ここには唯一無二の特権がある。 働かなくても生きていけるという特権が。 (『我もまたアルカディアにあり』 1 より) だいたいタイトルどおりの話である。

有頂天家族(森見登美彦)

有頂天家族 (幻冬舎文庫) 作者: 森見登美彦 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2010/08/05 メディア: 文庫 購入: 14人 クリック: 516回 この商品を含むブログ (132件) を見る 忘れないうちに書いておく。

風の海 迷宮の岸 (小野不由美)

風の海 迷宮の岸〈上〉 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート) 作者: 小野不由美,山田章博 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1993/03/20 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 16回 この商品を含むブログ (69件) を見る 風の海 迷宮の岸(下) 十二国記 (講談…

ブラックライダー(東山彰良)

ブラックライダー(上) (新潮文庫) 作者: 東山彰良 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/10/28 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る ブラックライダー(下) (新潮文庫) 作者: 東山彰良 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/10/28 メディア: …

ミート・ザ・ビート(羽田圭介)

ミート・ザ・ビート 作者: 羽田圭介 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2010/02/06 メディア: 単行本 クリック: 11回 この商品を含むブログ (5件) を見る 勉強の傍ら警備員のアルバイトに勤しんでいる浪人生の彼が、ある日古いビートが譲り受けられることに…

『愚行録』(貫井徳郎)

愚行録 (創元推理文庫) 作者: 貫井徳郎 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2009/04/05 メディア: 文庫 クリック: 20回 この商品を含むブログ (46件) を見る どこから見ても評判の良い奥さんに順調な出世を歩む旦那さん、そして二人の子ども。絵に描いたよ…

『サクリファイス』(近藤史恵)

サクリファイス (新潮文庫) 作者: 近藤史恵 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2010/01/28 メディア: 文庫 購入: 10人 クリック: 82回 この商品を含むブログ (135件) を見る 自分を犠牲にしてでもチームを勝利へ導くこと。そのような独特の性質に興味を抱いて…

まほろ駅前番外地

まほろ駅前番外地 著者 : 三浦しをん 文藝春秋 発売日 : 2009-10 ブクログでレビューを見る» 『まほろ駅前多田便利軒』を読んだのがもう一年半くらい前だったと思います。主人公二人がそれぞれ過去に縛られながら、互いの距離感をはかりつつ、種々雑多な事件…

『紫苑物語』(石川淳)

紫苑物語 (講談社文芸文庫) 著者 : 石川淳 講談社 発売日 : 1989-05-05 ブクログでレビューを見る» 先日『紫苑物語』の終わりの一節を読んで、あまりの美しさに衝撃を受けてすぐに本を買い求めました。表題作に加えて、『八幡縁起』及び『修羅』の収録となっ…

『小僧の神様・城の崎にて』

小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫) 著者 : 志賀直哉 新潮社 発売日 : 2005-04 ブクログでレビューを見る» 年末に借りてあったのを昨日読み終わりました。志賀直哉。うちのどこかに全集のうちの一巻があった気がする。 『城の崎にて』は高校の教科書に載って…

今年読んだ本まとめ

2015年もいよいよ終わり、ということで今年どんな本を読んだのかをまとめてみました。長くなるので目次をご活用ください。 小説 漫画 そのほか お薦め本ベスト12 小説 商業誌の小説のうち、年内に読み切った本です。紙書籍、電子書籍、購入した本、借りた本…

『スキップ』(北村薫)

北村薫の『スキップ』を読み終えて、緩やかで良い余韻に浸り、時間もあるものだからブログでも書いてみるかと思い至った次第である。 まさか前回の記事が八月だったとは思いも寄らなかった。 スキップ 作者: 北村薫 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1995/08…

『流』(東山彰良)

流 著者 : 東山彰良 講談社 発売日 : 2015-05-13 ブクログでレビューを見る» 「わしらに大義なんぞありゃせんかった」 主人公の祖父が述懐するのは、国民党と共産党に分けられるときのことだ。ちょっとした好悪で敵と味方にわかれ、その結果大陸と島国がとて…

悟浄出立

悟浄出立 著者 : 万城目学 新潮社 発売日 : 2014-07-22 ブクログでレビューを見る» 2009年から2014年という長い期間で書かれている。2006年にデビューした作者の、物語の書き方がどんなふうに変わったのかが見えてくるようだった。・悟浄出立 『西遊記』の沙…

『旅のラゴス』(筒井康隆)

旅のラゴス (新潮文庫) 作者: 筒井康隆 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1994/03/01 メディア: 文庫 購入: 44人 クリック: 360回 この商品を含むブログ (137件) を見る どうやら旅とは、行って、帰ってくるまでを指すらしい。『旅のラゴス』を読んでそう気…

読んだら是非とも感想を――『サラバ!』(西加奈子)

物語に時代を設定する意味は何か。 『サラバ!』では物語の書かれた理由が作中で言及されている。だが、僕が言いたいのはメタの話だ。どうして著者は、物語の時代をある時期からある時期までと具体的に定めたのか。ひとつあげるとすれば、時代観が読み手に与…

気づかないうちに広まっていた断絶について――『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』(辻村深月)

疑問に思うのは、いつでも選択する時期を過ぎてからだ。そのときは、それが唯一無二の答えであると信じて疑うことができない。 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』(辻村深月)は地方で暮らす女性に焦点を当てている。 母を殺した友人の行方を追うところから始まる…

『鉄道員』

高倉健が亡くなったのは去年、2014年の末だった。

辻仁成『冷静と情熱のあいだ Blu』(角川文庫)

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)(2001/09)辻 仁成商品詳細を見る タイトルはどこかで聞いたことがあった。印象的なので、たびたびどこかで引用されているのかもしれない。 元々江國香織さんと同じタイトルで違う人物に焦点を当てた物語を書く企画で生まれ…

『冷たい校舎の時は止まる』(辻村深月)

0. 「この本はきっと自分に合っている」と気づいたのは、読み始めてからまだ10分も経っていないときだった。駐車場に停めた車の中で時間待ちをしていて、手元に持ってきていたこの本を読んだのである。 読めたのは最初の30ページほどまでだ。冒頭にき…

貴志祐介『硝子のハンマー』(角川文庫)

とても本格的なミステリーだ。これほど真っ向から密室殺人を解きにかかった本は久しぶりに読んだ気がする。 本格派ミステリーというのはシャーロックホームズの時代から続く、謎を解くことを主題とした物語のことだ。誰が、どうして、どうやっての三つを主に…

浅田次郎『蒼穹の昴〈下巻〉』(講談社) 備忘録

清国末期を舞台としたスペクタクルロマン。前回と同じように、付箋をはった個所を取り上げていく。 p87 「全部のことね。ずうっと、ずうっと」 王逸は頷いて、まさしく宇宙の一点に立ち上がった少女の身体を見上げた。小梅はまる一晩、「宇宙」の文字を書き…

スイートフィッシュとジグソーパズル(色彩writer)

第18回文学フリマで購入した、サークル名・色彩writer様の短編集、『スイートフィッシュとジグソーパズル』を読み終えました。 明日、11月24日に開催される第19回文学フリマでも頒布されます。 もう半年も前のことなので、手に取った理由ははっきり…

浅田次郎『蒼空の昴〈上巻〉』(講談社) 備忘録

毎朝10ページずつというローペースで読み進めていた『蒼穹の昴〈上巻〉』がようやく読み終わりました。読みながら、気になった言葉に付箋を貼っていましたので、それをここに書置きしておこうと思います。 p39 抗う気力はどこにも残ってはいなかった。春児…

岩城けい『さようなら、オレンジ』(筑摩書房)

※この感想文にはネタバレが含まれます。お気を付けください。 この本を読み始めると、独特の違和感に襲われる。国にまつわる情報が少ないからだ。主人公のサリマが別の国から来た難民であることはわかるが、今いる場所がどこにいるかもわからない。主人公の…

いとうせいこう『想像ラジオ』(河出書房新社)

こんばんは。 あるいはおはよう。 もしくはこんにちは。 想像ラジオです。 こういうある種アイマイな挨拶から始まるのも、この番組は昼夜を問わずあなたの想像力の中だけでオンエアされるからで、月が銀色に渋く輝く夜にそのままゴールデンタイムの放送を聴…

宮本輝『三千枚の金貨』(光文社)

みつけたら、あんたにあげるよ。 男はそういって、自分の病室に戻って行った。 ――三千枚の金貨 第一章 より 西アジア旅行から帰国した40代サラリーマン、斉木光生。長い旅の最中、かつて入院していた時に見知らぬ男から受けた伝言が頭の中で蘇っていた。馴染…

よしもとばなな『デッドエンドの思い出』(文春文庫)

よしもとばななの名前を聞いたことはもちろんあった。大学入試の際にセンター試験の過去問を総当たりしていれば『TUGUMI』を見かけたし、図書館広報にもよく名前が載っていたと記憶している。しかし作品そのものを読み通したことは無かった。このたび…