雲に鳴く。

趣味の小説書き、雲鳴遊乃実のブログです。個人サークル『鳴草庵』

【感想】新説魔法少女

故あって10月の頭に引っ越しをした。

2週間ほどネット環境がない状況だったので、パソコンを起動させて掃除をしたり、ダウンロードしてそれっきりだったフリーゲームを漁ったりしていた。

そのうち、もっとも真面目に取り組んだのが、『新説魔法少女』だった。

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このゲームが正式に公開されたのは今年の2月頃だったか。

数年前に「フリーゲーム夢現」内でのコンテストで金賞を受賞した作品のリメイクだった。

魔法少女[フリーゲーム夢現]

前作は製作ソフトの関係で癖のある操作性であり、僕は途中で投げた覚えがある。

リメイクの話題が出てきて、作者さんのツイッターから更新があるとプレイしてみたりして、改善された操作性に、これなら今の自分でもできるかも、と手を出してみたのだが、結局は半年ほど放置することになった。

別に難があったわけじゃなく、忙殺されていたのが主な理由です。

 

内容について、ネタバレにならない程度に。

中学生(最終的には小学生~高校生)の少女達が、不条理な契約を交わし、マジカロイドという兵士となって、街に襲い来る怪物を倒していく。

SRPGなので、戦闘が始まるごとにフィールド画面に映り、キャラクターを移動させて敵を殲滅していくというのがゲームの大まかな流れとなる。

主人公や友人、それを含めたプレイアブルキャラクターは最終的には30人近くにもなる。全部を把握するだけでも大変そうだが、意外となんとかなる。キャラクターの個性がとても強く、印象に残りやすかった。

ゲームとしてもバランスがよく、所謂捨てキャラはいない。運用の仕方次第で如何様にもできる。もちろん均等に育てないからといって気にすることもない。誰かひとりを育てるのもそれはそれでいい。

 

ストーリーについては、僕としては半ばからぐいぐい面白くなっていった印象がある。

それまでのお話も決してつまらないわけじゃない。というか普通の水準を超えるくらい面白い。これがフリーゲームかあ……と感嘆しながらプレイしていた。

それを乗り越えて、中盤以降の展開はすごい。

感情の振れ幅が凄まじく、とっつきにくいと思っていたキャラクターたちの気持ちが、いつの間にかはっきりと掴めるものになっていた。

あれは不思議な体験だった。

喪失と絶望、そしてその克服。そのキャラクターの優先順位や目的意識。誰のために戦うのか。

諸要素が絡み合って、キャラクターを形作る。その個性が、ただの設定を乗り越えて、実体のある人間のように存在感を増していく。

異様にも思える性格だとしても、実感があった。嘘のようには感じなかった。

だから最後まで、むしろ最後になるにしたがって加速度的に、面白かったです。

 

レビューを漁っていると、ちょくちょくまどマギの話が出てくるのだけど、それが前々から気にくわなかった。何でもかんでもまどマギって言っておけばいいってもんじゃないと思っていたからだ。

それが、クリアまで通してようやく、比較したくなる気持ちもわかるような気がした。

具体的に言えば、まどマギのまどかが開幕で同級生五人を病院送りにするような性格だったらあれももっと面白かったんだろうな、って感じだ。

 

 

ゲーム性についても少し。

はっきりいって長い。全五〇話なのもあるし、一話ごとのプレイ時間もかなりかかる。

SRPGとしては簡単な方、なんて言われているけれど、あまり触れたことのない僕にしてみればむちゃくちゃ難しかったし、悩みまくった。

1回のプレイにかけた時間は、平均すれば3時間くらいじゃないだろうか。最終面は5時間だった。

それくらい、長い。

あと、パラメーターはしっかり観た方がいい。

いつの間にか、遠距離攻撃を受けてもほとんどダメージがないくらい成長している、ってこともある。

敵はだいたい遠距離を持っていて、味方の遠距離攻撃には使用期限がある。

どこまで進めるのか、どこまでなら耐えられるのか。カウンターをすべきか耐えるべきか。

これだけじゃない。先ほど個性が強いといったけれど、ゲームとしてもそこは同じで、性能はみんは違う。

考えることは山ほどあった。とはいえ、それがまた楽しかったんだ。

僕みたいに何かしらの分岐点全てでセーブを取ろうとする人はすぐにデータがいっぱいになる。

よくない癖だなと、最終面のデータでいっぱいになったボックスを見て思った。

 

この日記はただの雑文なので、宣伝効果も何もないとは思うけれど、

新説魔法少女、お薦めです。

【感想】盤上の敵(北村薫)

北村薫作品の中でもとりわけ異質な作品がある。

そんな噂を聞いたのはいくらか前のことだった。

日常の謎で、人間の悲しさや優しさを、読みやすく染みいるように語ってくれる。

僕が持っている北村作品のイメージはそのようなものだったので、異質というからには人間の残酷さが描かれているのでは、くらいの認識でいた。

 

この夏にようやく、読む機会を得た。

猟銃を奪う描写から始まり、立てこもり事件が発生する。その家の亭主と、彼の妻との二つの視点が交差する。妻の方は過去の物語を誰かに語るスタイルだ。

表現力は遺憾なく発揮されている。何気ない日々の描写に奥行きが広がっている。このあたりは他の北村作品と同じだった。

序盤戦が終わる頃には、主人公の二人の人間性は明らかになる。この二人には傷ついて欲しくないと思わせられ、先に触れた噂のことを思い出して暗澹としながら、ゆっくりページを捲っていった。

 

おかげさまで、すべてが裏目に出た。

異色ではあるが、異質ではない――解説に記載されているこの言葉は実に的を射ている。

この作品は他の北村作品と何も違わない。

そこにあるのは日常だった。優しささえも同じだったと言えるだろう。

だから多分、僕の認識が甘かっただけで、日常は決して、甘いものではなく、そこには悪意があるし隠れてもいないのだ。

 

桂の林の描写が余韻を残す。

ハートの形をした葉、と作中では描かれているのに、最後には心臓と描かれている。

たったそれだけで印象が違う。ハートだったらかわいらしいシンボルだ。

心臓といえば急所のことだ。機能からして命と言い換えても良いだろう。

その心臓に囲われて、優しい世界を祈る。その切実さがとても苦しかった。

 

盤上の敵 (講談社文庫)

盤上の敵 (講談社文庫)

 

 

以下、ネタバレあり感想

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